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「唐沢先輩! 助けて!」


 翌朝、流音は血相を変えて美術室に飛び込んで来た。


『朝から騒々しい奴だな。何事だ』


「あたし、昨日もう少しで殺されるところだったの」


『殺される? 誰に?』


「本橋さんだよ。昨日澄斗の家に行って三人でご飯を食べたの。本橋さんが出してくれたオレンジジュースを飲んだら、急に眠くなって……。そしたら本橋さんが豹変したんだ」


『豹変? まさか……吸血されたのか!?』


 流音は首を左右に振り、首筋を見せた。白くて美しい肌。傷ひとつない。


「蝙蝠が部屋に飛び込んで来たんだ。そのあとは……覚えてない」


『何もされなかったのか?』


「……うん。蝙蝠は本橋さんの仲間だったのかな。意識が朦朧としていたから、黒いシルエットしか見えなかった」


『そいつの顔を見てないのか?』


「……うん」


『本橋の仲間だとしたら、流音も空野も今頃はヴァンパイアになってるよ』


「……そうだよね。もしかしたら、澄斗のお母さんが帰宅して、諦めて逃げたのかもしれない」


『それもあり得るな』


「本橋さんは……あたしを狙ってる。澄斗ではなくあたしを……」


『空野ではなく流音を狙う理由は……?』


 もしかしたら……

 流音が俺の呪いを解く、十人目の少女だということを知ってのことか!?


『本橋の狙いは……』


 校庭を見下ろす。


 枯れた桜の木が黒い霧に包まれ不気味に揺れた。


『流音、本橋と2人きりになってはいけない。いいね』


「……うん」


『何かあったら、ここに逃げ込め。俺が君を守る』


「唐沢先輩……」


『君は俺の……』


 流音は呪いを解くためには必要不可欠な存在。


 十人の美少女の魂を絵画に封じ込めなければ、俺の呪いは永久に解けない。


 でも、彼女を守りたいのは、本当にそれだけの理由なのか……。


 自問自答しながら、俺は流音を見つめた。

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