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「ダメだよ! それを飲んじゃダメ!」


 あたしはペットボトルを奪い取り、シンクにオレンジジュースを流した。


「わ、ばか。もったいねぇだろ!」


「ダメだよ! この中に睡眠薬が入ってるの! 澄斗もこれを飲んで眠ったでしょう」


「流音、いい加減にしろよ。夢と現実の区別もつかないのか! 俺は眠っていない」


 澄斗は背後からあたしの体を抱き締めた。


「……澄斗」


「しっかりしろよ、現代にヴァンパイアなんて存在しない! 全部流音の妄想だ!」


「あたしの妄想……?」


 リビングの窓際に目が向く。窓ガラスの下に黒い粉が落ちているのが見えた。


 あれはきっと……。

 蝙蝠の飛膜の一部……。


 やっぱり、夢じゃない!


「澄斗、南仏中学校にはヴァンパイアや幽霊が存在するんだよ。でもそれらにも善と悪がいる。このままでは学校は人間を襲うヴァンパイアや悪霊に支配されてしまうかもしれない」


「幽霊に善と悪? 流音、何言ってんの?」


「学校の怪談知ってる? 美術室の幽霊や化学室のヴァンパイアは人間の敵じゃない。本当の敵はもっと近くに潜んでる」


「流音の言うことが本当なら、そいつらは全部悪だよ。美術室の幽霊だって、人間の魂を抜き取り死に至らしめた。化学室のヴァンパイアだって、人間の生き血を抜き取るんだ」


「……違うよ、彼らは……」


 リビングのドアが開き、おばさんが入って来た。


「澄斗、深夜に何を怒鳴ってるの。流音ちゃん大丈夫? 眠れないの?」


「おばさん、深夜に騒いでごめんなさい。あたし自分の家に帰ります。あの……本橋さんには十分気をつけて下さいね」


「本橋さん? 可愛いお嬢さんね。気をつけるのは本橋さんのほうね。澄斗、変な気を起こしちゃダメだからね」


「は? 俺かよ。何もしねーよ」


「……おばさん、お邪魔しました。おやすみなさい」


 あたしはリビングを出て玄関に向かう。


 誰かの……

 視線を感じた。


 澄斗の部屋のドアが少しだけ開き、そこから妖気が漂っている。


 恐ろしいほどの……

 鬼気迫る妖気……。


 振り向くと、パタンとドアが閉まった。


 本橋さんがあたしを見ていた。


 あれが現実なら……

 あの蝙蝠は……、一体だれ?

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