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「早く眠りなさい」


「本橋……さん」


「同じ量の睡眠薬を入れたのに、あなたにはなかなか効かないみたいね。図太いな」


「……睡眠……薬」


 本橋さんはスクッと立ち上がる。動けないあたしの隣に立ち、首に指を這わせた。


「綺麗な肌……。この肌の下に新鮮な血が流れているのね。ぞくぞくするわ」


「……っ」


 命を脅かす危機を感じた。

 足が鉛のように重く、逃げることが出来ない。


 気持ちは焦り、椅子から転落する。足を引き摺り這うようにバルコニーに通じる窓に向かう。


 隣家には母がいる。

 窓を開け叫び声を上げれば、助けに来てくれるに違いない。


 窓に手を伸ばし鍵を開けた。背後から本橋さんが抱き着いた。


「……ひーっ」


 意識は朦朧としながらも、瞳には口をカッと開いた恐ろしい形相の本橋さんの姿が映った。


 ゆっくりと近付く牙……。


 これは夢……?

 これは現実……?


 あたし……

 本橋さんに殺されるの……?


 バタバタと窓ガラスを叩く音がした。


 あたしの首筋に口を近付けていた本橋さんが、一瞬視線を窓ガラスに向けた。


 窓ガラスには一匹の蝙蝠。

 開けろと言わんばかりに、黒い翼を何度もガラスにぶつける。


 本橋さんの……

 仲間……!?


 本橋さんはあたしから離れ、窓を開けた。あたしは床に倒れ、朦朧としながらも、悪夢のような光景を見ていた。


 蝙蝠が室内に飛び込む。


 その姿が……

 瞬時に人の姿へと変わった。


 顔は隠れ、黒いシルエットしか見えない。


 本橋さんを操る……

 新種のヴァンパイア……!?

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