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『でも、普通の人間には理解出来ないことだ。その力はむやみやたらと使用してはいけない。いいね』
「……はい」
唐沢先輩はあたしの頭をポンポンと叩いた。
『流音が平常心を保てるおまじない。ほら、教室に戻って』
唐沢先輩のおまじない。
心がじーんと温かくなる。
頬が紅潮し、染まっていくのが自分でもわかる。
あたし……
唐沢先輩に……?
幽霊に……
恋してるの……!?
「放課後また来ていい?」
『わかった。人物画のモデルが必要なら、いつでも脱ぐよ』
唐沢先輩の裸体を想像したとたん、頭の中が熱湯みたいにブクブクと沸騰してる。
◇
美術室を飛び出したと同時に、一限目終了のチャイムが鳴った。
トボトボと教室に戻ると、本橋さんがあたしに視線を向けた。
本橋さんの隣には澄斗。
その周辺には黒谷君と伊住君の姿……。
あたし……
ハブかれてるのかな。
居心地最悪だよ。
「流音、お前授業サボッて美術室にいたんだってな。何やってんだよ」
黒谷君が澄斗に話したんだ。
あたしの不思議な能力も話したの?
「そんなに鼠のことがショックだったのか」
本橋さんが澄斗に話したんだね。
「ショックだよ。焼却炉に生きたまま投げ込むなんて残酷だよ」
「生きたまま……?」
澄斗があたしに視線を向けた。
「鼠捕りの中で死んでたんじゃねぇの?」
「鼠はすでに死んでたわ。あたしが生きたまま殺すなんて、風見さんどうかしてる」
本橋さんは澄斗に怯えた眼差しを向ける。
「流音、鼠に餌付けするなんてバカな真似はもうやめろ。死んでしまったものは仕方がないだろう。処分して当然だ」
「それは本橋さんが……」
「本橋さんは用務員さんに死骸を渡したまで。普通はそこまで出来ないよ。みんな感心してるんだ」
「……感心」
みんな騙されてるよ。
本橋さんはそんな女の子じゃない。
本橋さんは……
本橋さんは……。
チャイムが鳴り、みんな席に着く。
本橋さんは……
ハカセを生きたまま殺した。
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