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「ハカセは死んだよ」


『まさか……』


 唐沢先輩は愕然とした。


「本橋さんは何をするかわからない。次は唐沢先輩を狙うかもしれない」


『俺はもう死んだも同然だからな。本橋が狙うとしたら、生きている人間。ヴァンパイアの女性は同性を好むとハカセから聞いたことがある』


「同性? ……だから神川さんを?」


 突然ドアが開き、パシャパシャとフラッシュが光った。


「やめて! 写真撮らないで!」


「話し声が聞こえたからね。風見さんが授業をサボるなんて、珍しいね。ここで何してるの? 誰と話してたの?」


「黒谷君こそ、今授業中だよ」


「俺はいつもサボってっからな」


 黒谷君は再びカメラを構えた。


「撮らないでって言ってるでしょう!」


 ハカセが死んでしまった悲しみと怒りから、必要以上に声を荒げ黒谷君を睨み付ける。


 教室内に突風が吹き荒れた。


「うあっ」


 風に煽られ、黒谷君が足を踏ん張る。いつも被っているフードが脱げそうになった。


 カメラを構えていた黒谷君が、フードを両手で押さえた。


『流音! もうやめろ』


「……ぇっ? あたし?」


 ポンと肩を叩かれ、我に返る。スーッと全身の力が抜けた。


 今の突風は……

 唐沢先輩じゃなくて、あたし……?

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