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「ハカセを返して!」
本橋さんは焼却炉の中に、鼠捕り器ごと放り込んだ。
「きゃああー!」
鼠の鳴き声が燃え盛る火に包まれる。あたしは焼却炉の前にへたりこんだ。
「君たち、何をしている? 授業が始まるよ。始業のベルが鳴っただろう」
用務員さんの姿に、本橋さんは校舎の中に入る。
「鼠が……中に」
「鼠?」
ポロポロと涙を溢すあたしの目の前で、用務員さんが焼却炉の扉を閉めた。
ハカセが死んだ……。
ハカセが……。
泣きながら四階に上がる。
教室に行き、授業を受ける気にはとてもならなかった。
◇
―美術室―
「……唐沢先輩」
『どうした? もう授業始まってるよ。サボったのか?』
「……ハカセが、ハカセが」
わんわんと声を上げて泣くあたしを、唐沢先輩は両手で包み込む。
抱き締められた感覚なんてない。でも……冷たさではなく、ぬくもりを感じた。
『それは確かか? 君の勘違いでは?』
「勘違いなんかじゃない。本橋さんが鼠捕りにかかった鼠を焼却炉に……」
『鼠捕り? まさか、ハカセが鼠捕りにかかるなんて、あり得ないよ』
唐沢先輩は床にしゃがみ込み、壁の小さな穴に口を近づけ呼び掛ける。
『ハカセ、ハカセ、いるなら出て来い』
だけど……
何度呼び掛けても、ハカセが姿を現すことはなかった。
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