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 あたしは絵画を描くわけでもなく、背後から二人を見ているだけ。


 パタパタと翼の音がし、蝙蝠があたしの周辺を飛び交う。


「きゃあ」


 本橋さんは女の子らしい可愛い悲鳴をあげて、澄斗に縋りついた。その体は小刻みに震えている。


 ――その時……

 見えたんだ。


 本橋さんの白い首筋に、絆創膏が貼ってあるのを。


「本橋さん、首……怪我してるの?」


 本橋さんはあたしの問いに、キツい眼差しを向けた。その目はか弱い少女の眼差しではなかった。


「虫に刺されただけ。学校に蝙蝠だなんて気持ち悪い。先生に駆除してもらわないとね」


「駆除だなんて……」


「今は使用されていない化学準備室、そこが鼠や蝙蝠の巣になっているに違いないわ。殺鼠剤を散布するか、捕らえて殺すしかないわね」


「……殺す!?」


「そうよ、風見さん、なに驚いているの? あなたが鼠を餌付けするからいけないのよ。まさか蝙蝠にも餌付けしてるの? 蝙蝠もペットだなんて言わないわよね」


「化学準備室にいる鼠や蝙蝠は、人間に危害を加えたりしないわ」


「どうしてそんなことがわかるの? 今だってあたしを襲ったわ」


 本橋さんはあたしに鋭い眼差しを向けた。その眼差しの奥に見える不気味な光に、思わずぞっとした。

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