流音side

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「流音、なに接近してんだよ。キモいから離れろ」


「別に接近してないし」


 あたしは澄斗の背後から、食い入るように首筋を見る。少し伸びた髪と白いカッターシャツが首筋を隠し、見えそうで見えない。


「風見さんは美術室で妖精を描くんじゃないの? それとも、あれは美術室の幽霊かな」


「……っ」


 本橋さんに幽霊といわれ、思わずドキッとする。


「本橋さん、黒谷の撮った写真を気にしてるのか? 流音の傍にいた黒い影は、きっと黒谷の影が写りこんだんだよ」


 澄斗は霊の存在を信じていない口振りだ。


 それは自分がヴァンパイアだから誤魔化してるのかな? それともまだ人間だから、本気でそう思っているのかな?


 気になるけど、本橋さんの手前単刀直入に聞くことは出来ない。


 澄斗は校庭の桜の木を前面に描き、背景にはグラウンドで練習をしているサッカー部員を描いている。


 本橋さんはキャンバスに向かっている澄斗をデッサンしている。


 はっきりいって、本橋さんのデッサンは下手だ。画の才能があるとは思えない。


 太陽を怖れない突然変異。でも直射日光には弱いはず。


 二人は日陰に座っている。


 本橋さんは貧血で、体育の授業はいつも見学か教室で自習だ。


 風が吹き髪が揺れる。

 チャンス到来だが、本橋さんは瞬時に手で乱れた髪を押さえた。

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