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『ハカセ、俺はこの美術室から出ることは出来ない。時々彼女の動向を知らせてくれないか』


『ほほう、風見流音が気になるのか? お前、まさか人間に恋を……』


 ハカセは口元をニヤつかせた。


『勘違いするな。彼女に恋愛感情などない。彼女は俺の呪いを解くキーパーソンだからだ』


『成る程、そういうことにしてやるよ。だが、風見流音よりも本橋つみれの動向を調べた方がよさそうだな』


 本橋がハカセと同じヴァンパイアだとしたら……。


 本橋の狙いは……

 一体何なんだ……!?


 ◇


 放課後、美術室に部員が集まる。二年生の女子は欠席、空野は校庭で風景を描くと顧問に告げ、キャンバスを手に取る。


 まだ風見流音の姿はない。


「柿園先生、あたしも校庭で描きます」


「そう。今日は二人かな? だったら……先生は職員室にいるから、何かあれば知らせてね」


「はい」


 柿園先生が美術室を出た。

 本橋がキャンバスを掴む。


 俺は本橋の前に立つ。

 本橋の動きが一瞬止まる。だが、俺をよけ、何事もなかったようにドアの方向に歩く。


 俺は先回りし、ドアを封じる。


 本橋がゆっくりと視線を上げた。俺と視線が重なる。


『俺が見えているのだろう。その証拠に、今、俺をよけた』

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