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「流音ー!」


 ママの拳骨が飛ぶ前に、あたしは自分の部屋に避難する。


 本橋さんは苦手なタイプ。

 彼女と同じマンション、同じクラス、同じ部活だなんて、息が詰まりそうだ。


 ◇


 翌朝、トーストをかじりながら玄関を飛び出す。


「流音! お行儀が悪い! 何度言ったらわかるの!」


「はいはい。以後気をつけます! いってきまーす!」


 玄関を開けると、澄斗と本橋さんが仲良く通路を歩いていた。


 四階の本橋さんが、どうして五階にいるのよ。


 朝から、何故かイライラがする。


 エレベーターに乗り込む二人。一緒に乗りたくなくて、わざとそっぽを向きながら歩く。


 早く一階に降りてよ。

 あたしは次に乗るから。


「流音、早くしろよな」


 誰も頼んでないのに、澄斗はエレベーターの扉を開けたまま、あたしを待っている。


「先に行ってよ」


「は? バカじゃね? 早く乗れよ。何不貞腐れてんの?」


「不貞腐れてません」


 仕方なくエレベーターに乗り込むと、本橋さんがにっこり微笑む。


「昨日はご馳走さまでした。空野君の幼少時代の写真も可愛かった」


「俺の幼少時代!? 流音、何、勝手に見せてんだよ」


「あたしは見せてません。ママが勝手に見せたの」


「羨ましいな。幼なじみって、まるで兄弟みたい。もしかして恋愛感情もあるの?」


「「ナイナイナイ」」


 同時に、ブルブルと首を左右に振った。


「恋愛感情ないの? だったら、空野君あたしと付き合って」

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