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 ハカセはドアからすり抜け、黒谷君の前に立つ。黒谷君がカメラを構えると、ハカセはレンズを手で塞ぐ。


「あれ? 見えない。おかしいな」


 廊下にレンズを向け何枚か試し撮りをすると、再び化学室にカメラを向ける。


 ハカセは再びレンズを手で塞ぐ。


 ちょっと怖いイメージだった黒谷君が、ハカセにもて遊ばれ滑稽に思えた。


 まるでコントを観ているようだ。


 あたしは必死で笑いを堪える。


「カメラの調子が悪いみたいだな。今日はもう撮影中止だ。風見、お前さ、美術部だよな。神川のこと病死だと思うか?」


「神川さん? 医師がそう診断したなら、病死だよ。それ以外に何があるの?」


「伊住がさ、この学校に蔓延る悪霊の仕業だって言うからさ」


「悪霊!?」


 ハカセが黒谷君の頭を押さえつけた。


「うわっ!?」


 頭上を見上げ、黒谷君が蜘蛛の巣を払うみたいに、頭上で両手を揺らす。


「黒谷、お前何やってんだよ」


 澄斗が美術室から黒谷君を見て笑ってる。


 ハカセは澄斗に近付き、黒谷君にしたように澄斗の頭を押さえつけた。


「本橋さん、頭を触らないでくれよ」


「空野君、あたし触ってないよ」


 本橋さんは少し離れた場所で、両手をヒラヒラさせた。


「うわぁっ!!」


 澄斗はストンと尻餅をつき、周囲を見渡した。


 黒いマントを翻したハカセ。廊下に突風が吹き荒れる。


 黒谷君は鋭い眼光を向け、再びカメラのシャッターを切った。

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