流音side

51

 化学室と美術室は隣接している。


 従って、美術部の二年生部員も怖がって部活に出て来なくなったが、一年生の風見流音と空野澄斗、転入生の本橋つみれは怖がる風でもなく、美術室で画を描いている。


「本橋さんは怖くないの?」


「あたし? 神川さんは心不全だよね。幽霊でも見たのかな。それでショック死? もしかして、この美術室に棲みついてる幽霊を見たのかも」


 本橋さんはあたしに視線を向けた。棲みつくなんて、唐沢先輩に対して失礼だな。


「美術室に幽霊なんていないよ。いるなら逢ってみたいね」


 あたしの言葉を聞き、唐沢先輩が自分を指差した。


「風見さんは幽霊ともう逢ってるんじゃないの?」


「……えっ?」


「……まさか、逢ってないよ」


「そうかな。その人物画、誰かをモデルにして描いているみたいだし。いつも一人でブツブツ言ってるし」


 的を得ているだけに、答えられず困っているあたしに、澄斗が助け船を出す。


「流音が描いてるのは、ちっちゃいおっさんだろう」


「おっさん?」

『おっさん!?』


 唐沢先輩と本橋さんの声が重なる。


『その絵画は、老け顔なのか。おじさんを描いていたのか』


 唐沢先輩は完全に怒っている。


「違うよ。澄斗変なこと言わないで」


「風の妖精とかいうからだよ。コイツちっちゃいおっさん見えるみたいだからさ」


 澄斗の言葉に、本橋さんはクスクスと笑った。


「小人の妖精が見えるんだ。風見さんってやっぱり面白いね」


 唐沢先輩は小人なんかじゃない。澄斗より背も高いし、顔だってイケメンだ。


 じっと見つめられたら、ドキッとするんだから。

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