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 風見流音の言った通り、もし彼女の首に二つの牙のあとがあるとしたら、彼女はヴァンパイアに襲われたことになる。


『ハカセ、俺にだけは本当のことを言え。ハカセが彼女を吸血したのか?』


『ジュナ、俺を疑っているのか? 俺は何十年も生き血は食していない。お前もそれは知っているだろう』


 ハカセが彼女を吸血していないのなら、一体誰が……。


『本当か? 俺に嘘を吐くなよ』


『嘘なんて吐かねぇよ』


 ハカセが満更嘘を吐いているようには思えなかった。


 この学校に俺とハカセ以外に、人間ではない生徒が潜んでいる。


 彼女がヴァンパイアとして甦ったとしたら、彼女を襲ったヴァンパイアがいるはずだ。


 もしもそれが本当なら、美術室でずっと一緒にいたのは……空野澄斗しかいない。


 ――翌日、再び事件が起こった。早朝救急車のサイレンが鳴り響く。


 救急車は校庭に停車し、生徒が教室の窓から身を乗り出した。


 救急車から降り立った救急隊員は、担架を担ぎ階段を駆け上がる。


 救急隊員の足音は四階の化学室の前で止まった。


「脈は感じられません。瞳孔も反応なし」


 救急隊員は女子生徒を担架に乗せ、階段をゆっくりと降りた。


 授業は始まっていたため、生徒は教室の中だ。


『ハカセ、お前……』


『ジュナ、俺じゃねぇよ。お前が女子生徒の魂をこっそり絵画に封じ込めたんじゃねーの?』


『俺が? 俺は彼女の絵画を描いていない』


 倒れていたのは、一年B組、神川夏季かみかわなつき。美少女だが高飛車で、女子からは嫌われていた。


 神川夏季の死はたちまち学校中に広まった。


 倒れていた場所が化学室の前だったことから、生徒達の間で化学室のヴァンパイアの仕業だという噂が流れた。


 目撃者は誰もいないのに、『首には牙のあとがあった』とか、『神川の死体が甦りこの学校に舞い戻る』とか、神川の死をきっかけにこの学校の怪談話が再び再燃する。


 神川の死因は心不全による突然死と診断され、病死とみなされたが、棺の中の顔は目も口も見開き、恐怖に歪んでいたらしい。


 当然、生徒は恐れをなし誰も化学室には近付かなくなった。


『血液が抜かれていたという噂話は出ていない。だとしたら本当に病死だったんじゃね? 言っとくが俺は無関係だからな』


 ハカセは化学室に誰も近付かなくなったことを、寧ろ喜んでいるようだった。

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