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 あたしの勘違い?

 あれが目の錯覚?


 確かに廊下には女子生徒が倒れていた。


 首の傷もはっきり見たし、首がくるりと回転したのも見た。


 でも、今は廊下に誰も倒れていない。


「あたしの勘違いかな。そうだよね。人間の首が回転するわけないよね。やだな、誰かの悪戯かな。唐沢先輩、そんなことより人物画のモデルお願いします」


『立ち直り早いな。本当に俺を描くつもりか』


「はい。昨日と同じポーズでお願いします」


『そんなに俺の裸体が見たいのか?』


「……っ」


 唐沢先輩はブレザーを脱ぎ捨て、ネクタイを右手でキュキュッと緩めた。


 その仕草に思わずドキッとしたあたしは、やっぱり変だ。


 今まで裸体の絵画を見ても、モデルを見ても、ドキドキしたことなんて一度もないのに。


 『綺麗だな』と、思うことはあってもそれはあくまでも芸術だから。


 唐沢先輩は人物画のモデル。それなのに異性として意識するなんて、あたしはどうかしてる。


『お前、熱があるのか?』


「えっ? ないない。いたって健康体」


『でも顔が赤いよ。まるで熱があるみたいだ』


「それは、朝日が顔に当たってるからです」


 キャンバスを立て、唐沢先輩に視線を向ける。


 ヤバい……

 目が合った。


 今日は無理、こんな状態で絵画なんて書けない。バタバタと広げた筆やキャンバスを片付ける。


『俺を裸にして、なにやってるんだ? 絵の具を出したり入れたりしなくていいから、早く筆を動かせ』


「や、やっぱり今朝は中止します。変死体騒ぎで時間なくなったし、あたしだって死体を見たら動揺するの。唐沢先輩、放課後またお願いします」


『放課後? いいけど。今日は美術部の部活のある日だよ。みんなも来るけど』


「わかってます! 失礼します!」

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