澄斗side

39

「ぎゃあぁー!」


 突然の停電に俺は悲鳴を上げた。


「懐中電灯、懐中電灯」


 懐中電灯は常に机の上に常備している。カチカチとスイッチを入れたが、懐中電灯は点灯しなかった。


 何だよ、まさかの電池切れかよ。


 手探りで部屋の窓を開け、バルコニーに飛び出すと、外は暗黒の世界だった。


「どうなってるんだ……」


 停電だけではなく、車のライトも消えるなんて、異常だ……。


 暗闇の中で、人の悲鳴や子供の泣き声がした。


 ふと何かの気配を感じ、背筋がゾッとし思わずバルコニーにへたり込む。


 数秒後、電気が点きその気配が隣室に住む流音だとわかった。


「あはっ、澄斗腰抜かしたんだ。今の何だったのかな。宇宙人の仕業かな? 絶対UFOの仕業だよね?」


「流音は呑気だな。俺達は怪奇現象を目の当たりにしたんだよ」


「あたしは澄斗が腰を抜かすとこを、目の当たりにしたけどね」


「うっせぇ」


 バルコニーの仕切り板越しに、流音は憎まれ口を叩いた。


 でも……

 本当にUFOだったのかな。

 全ての灯りを消すなんて、人間の成せる技ではない。


 重い腰を上げ、俺は部屋に入る。


 流音はまだバルコニーで、夜空を見上げていた。


 室内から微かに見える流音の横顔。


 バルコニーのフェンスの上に手を組み、顎を乗せ月を見上げる横顔は、いつもの生意気な流音ではなく、とても綺麗だった。


 トクンと……

 鼓動が跳ねた。


 トクン……トクン……。


「流音、いつまでも外に出てないで、早く寝ろよな」


「わかってるよ。澄斗はロマンの欠片もないな。宇宙人が地球人を試したのかもよ。おやすみなさい」


 何がロマンだ。

 あれは怪奇現象だ。


 窓を閉めレースのカーテン越しに流音の横顔を見つめた。


 中学生になっても子供染みていて、鈍感で宇宙人や幽霊を信じている変な奴。


 ――だが、俺の気持ちは……

 流音にはまだ気付かれてはいないようだ。

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