ジュナside

37

『ジュナ、月を見上げて、変身でもするつもりか?』


『ハカセか。俺は狼男じゃないよ』


『いっそ、狼男になっちまえば楽になれるぞ』


 ハカセはビーカーの中に入った赤い液体を、喉を鳴らしながら飲み干した。


『それは?』


『血液により近い成分を含んだ俺の生命維持ドリンクだよ。味は激マズ、完成までにはあと一歩だな』


『吸血鬼なのに、化学実験を繰り返し血液に似た成分のドリンクを何十年も開発し続ける。人間界ならノーベル賞ものだよ』


『それは誉めているのか? それともバカにしているのか?』


『両方だ』


『コイツ!』


 ハカセは俺を羽交い締めにしようと襲いかかるが、瞬時にその腕をすり抜ける。


 壁にかかる絵画が、じゃれ合う俺達を見つめ楽しそうにクスクスと笑い声を上げる。


『なぁ、ハカセ。ハカセはどうしてずっとこの学校にいるんだ?』


『俺か? 他に行くところがないからな。俺はジュナとは違う。ルーマニアからこの地にタイムスリップした身だ。俺のいた時代に戻りたくても、自分の力じゃ戻れねぇ。だが、ここに落ちたからには、ここを離れるわけにはいかない。時空を飛び越える何かが、この学校にあるに違いないからな』


『タイムスリップか。それが可能なら俺もしたいよ。地縛霊に呪いをかけられることがわかっていたら、この学校に入学はしない。もう一度人生をやり直す』


『俺達は似た者同士。今やこの学校の超有名人。学校の怪談の主人公が簡単に消えてしまったら、生徒達が悲しむぜ』


『なに言ってんだか』


 俺の中に迷いが生じている。


 悪霊の呪いを解くために、九人の美少女の魂を絵画に封じ込めた。


 十人の美少女を封じ込めれば、俺の呪いは解け甦ることが出来ると信じていたからだ。


 もしも呪いが解けたなら、ハカセのいうタイムスリップで、俺は五十年前に戻り、高校生からやり直す。


 だが絵画に封じ込めた美少女達はどうなるのだろう。


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