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澄斗はケラケラ笑ってる。
キャンバスに向かっている澄斗はちょっとかっこよく見えなくもないが、口を開くと最悪だ。
でも同じ世田谷に住み、同じマンション、しかも隣だ。シカトするわけにもいかず、一緒に帰る羽目になる。
「相変わらずデッサンしないで描いてんのかよ。大雑把だな。イメージだけで描けんの? 落書きじゃないんだから」
「悪い? あたしは頭に浮かぶイメージをそのままキャンバスにぶつけてるの。デッサンするとイメージが固定されるから嫌だ」
「雑だよ。同じ絵を描く者として考えられないな」
「悪かったわね。あたしの描き方に文句言わないで」
「はいはい」
学校とマンションは近い。
十分も歩けばマンションに到着だ。
狭いエレベーターに二人で乗り込む。
「なぁ、三堀の言ってたこと本当か?」
「千秋? 何か言ってたっけ?」
「化学室にヴァンパイアがいるって話だよ」
「ハハン、怖いの?」
「怖かねぇよ。女子のくだらない噂話しに伊住が飛び付くから、気になっただけ」
「化学室にヴァンパイアはいるよ」
「まじか!?」
澄斗は昔から怖がりだ。
すでにヤモリみたいに、エレベーターの壁に張り付いている。
あたしは澄斗に昔から霊感があると思われているらしく、ホラー的な何かがあると、必ずあたしに聞いてくる。
「嘘だよ、灰色の鼠が一匹いるだけ」
「なーんだ。俺をからかうな!」
逆切れした澄斗。
鼠の正体はヴァンパイアなんだけどね。
エレベーターが五階に到着し、澄斗は飛び出す。
偉そうに威張り腐って、あたしの前を歩く澄斗。
「澄斗、美術室に幽霊がいたらどうする?」
「は? 伊住が根拠のない噂話しだと言っただろう」
「美術室の幽霊は信じてないんだ」
「信じてねぇよ」
「じゃあ壁の人物画の噂話しは?」
「ただの人物画だろう。女子の魂が入ってるはずがない」
「そうかな、一人で美術室にいるとクスクス笑い声が聞こえるらしいよ」
「ひいー……っ」
澄斗は突然走り出し自宅のドアノブを掴み、室内に逃げ込んだ。鼠より逃げ足は速い。
本当にビビりなんだから。
どんなに学校で威張り散らしても、この情けない姿を知っているあたしは、澄斗なんてちっとも怖くない。
最強の俺様ぶってるけど、実は女子よりも超ヘタレだ。
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