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美術室の扉が開き、甲高い声がした。
「あら、風見さん来ていたの?」
「はい」
突然現れた柿園先生に、筆が止まる。
「何を描いてるの? これは人物画ね? 被写体もいないのに空想にしてはリアルね。自主練してるの?」
「いえ、これは……。春の絵画コンクールに出品するつもりです」
「春の絵画コンクール? そういえば学生のコンクールが五月にあったような……」
美術部の顧問なのに、春の絵画コンクールを知らないなんて、こんな先生が顧問で大丈夫なのかな。
柿園先生は教室の後ろに伏せられた水入れが気になって仕方がない様子だ。教室の後ろにつかつかと歩みより、水入れを掴んだ。
「ここに何かいるの? 音がしてるけど……」
「あっ、先生それは……」
水入れを浮かすと、鼠が飛び出した。柿園先生が悲鳴を上げ逃げ惑う。
「きゃああー!」
『あれ見て。ハカセに追い掛けられて、騒いでるわよ』
『滑稽ね。教師のくせにみっともない』
絵画の美少女がバカにしたように嘲笑う。
ハカセは面白がっているのか、柿園先生をずっと追いかけている。
柿園先生はヒールの高いパンプスを脱ぎ捨て、半ベソで机の上に這い上がった。
「風見さん助けて! お願い助けて!」
あたしは仕方なく筆を置く。すかさず唐沢先輩がキャンバスを覗き込む。
『何だ、まだ輪郭しか描けてないじゃないか。ピッチを上げろ』
「そんなに早く描けないよ。また明日宜しくね」
「きゃあ、風見さん、風見さん。絵なんていいから、早く助けて!」
「はいはい」
床にしゃがみ込み、あたしが右手を差し出すと鼠は掌の上にピョンと飛び乗った。あたしは鼠に顔を近付ける。
「柿園先生に意地悪しないの」
『それはこっちのセリフだ。お前が俺を水入れに閉じ込めるからだ』
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