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 見つめ合う目と目、壁の人物画が同時に悲鳴を上げた。


『ぎゃあー! 何してるの!』

『私のジュナ様を誘惑しないで』

『この泥棒猫!』

『ジュナ様に触らないで!』

『私がファン一号よ!』

『ジュナ様から離れて!』

『あなたが十人目だなんて信じないから』

『この不細工女』

『ジュナ様は私のものよ』


 いつも上品な微笑みを浮かべているのに、みんな殺気立って本音が漏れる。


 『心身ともに清らかな美少女』のはずなのに、性格は嫉妬深いようだ。


 魂を人物画に封じ込められて憎んでもいいはずなのに、まだ唐沢先輩に想いを寄せているなんて信じられない。


 あたしなら『ここから出して!』って、きっと暴れてる。


 ていうか、どさくさに紛れて、『不細工女』ってなに。誰が言ったのか知らないが、失礼にも程がある。


 壁ドンに失敗した唐沢先輩は、胸板を露にしながら首を傾げた。


 髪が揺れ、流し目……。


『今日はギャラリーの機嫌が悪いようだな。みんなすぐに終わるから、我慢して』


 壁の人物画は「「はーい」」って、超可愛い子ぶっている。


「唐沢先輩、窓際に座ってて下さい」


『この俺がじっとしているなんて性に合わない』


「モデルなんだから、絶対に動かないで下さいね」


 あたしは唐沢先輩を被写体に、キャンパスにイメージする。


 唐沢先輩には羽なんてないのに、あたしには唐沢先輩の背中に美しい翼が見えた。


 頭に浮かぶイメージと、目の前にいる唐沢先輩を重ね、鉛筆を使わず薄い絵の具でキャンバスに下絵を描く。


 美術室にいるのは、あたしと唐沢先輩。


 そして、九人の女性の嫉妬に満ちた眼差しと、チューチューと鳴いている鼠。


 そんな外野が気にならないくらい、あたしは夢中で筆を動かした。

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