【4】呪いと鈍い

流音side

31

 人物画のモデルは美術部の先輩。

 一目でその容姿にハートを撃ち抜かれた。


 彫りの深い顔立ち。

 少し栗色の柔らかな髪。


 日焼けしていない、透き通るような白い肌。


 黒い瞳は大きく、フランス人形みたいな長い睫毛。


 開け放たれた窓から入る爽やかな春風。


 オレンジ色の夕陽に染まった髪がふわふわと風に揺れる。


 今まで、こんな美男子イケメン見たことがない。


 最強の美男子だ。

 理想のモデル。


 ――『全部脱げばいいのか?』


「うわ、わ!?ぬ、脱がないでっ!」


 制服のブレザーを脱ぎネクタイを緩め、美しい上半身を露にした先輩は、妖艶な笑みを浮かべ微笑んだ。


『もっと傍においでよ。美少年に描いてくれる約束だろう』


「わ、わ、わ、先輩、そんな格好で私に接近しないで、じっとして。集中出来ないよ」


『その絵が完成したら、次は君がモデルになる番だよ。実物よりも美少女に書くから安心して』


「はっ?」


 このあたしにモデルになれと?

 マジですか?


 ――ドンッ! ムニュ……?


 先輩の攻めポーズは、壁ドンッ?

 鼓動がトクンと跳ねる。


 でも、ムニュってなに?

 思わずチラッと横目で壁を見る。


「ひょえ!?」


 じわぁー……と先輩の顔が近付く。

 それもそのはず、先輩の手は壁の中に吸い込まれているのだ。


「わ、わ、わ、わ、わ、」


 あと数センチで唇が……!?


 ――次の瞬間、先輩はズコッと前につんのめった。生クリームのケーキに顔を突っ込むみたいに、壁に顔を埋めた。


「唐沢先輩、顔……壁に埋まってますよ」


『……っ、気にするな』


 ちょっと困り顔をした唐沢先輩。


 その顔にあたしのハートがキュンと音を鳴らし、春風に吹かれる風船のようにふわふわと揺れた。

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