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「あの、唐沢先輩。お取り込み中すみませんが、人物画のモデルになってくれますよね」


『何度も言わせるな。断る』


「だったら、あたしも唐沢先輩の絵画のモデルにならないよ」


『なんだと。この俺に指図するのか』


 憤慨する俺の肩を、ハカセがポンポンと叩く。


『彼女の方が上手うわてだな。取り敢えずモデルになった方がいいんじゃね? モデルになったところで、彼女に魂を抜かれることもないだろうし』


『ふん、他人事だと思って。わかった、ただし条件がある。俺の人物画は美しく描け。俺の人物画が完成したら、次は俺に君を描かせろ、いいな』


「モデルになってくれるの? やったぁ!」


 流音は両手を上げ、バカみたいに喜んでいる。流音は本当にわかっているのか。


 俺が悪霊にかけられた呪いを解くために、人物画を描いて絵画に美少女の魂を封じ込めているということを。


 始業のチャイムが鳴り、彼女が慌てて美術室を飛び出した。


「唐沢先輩、放課後宜しくね」


 バタバタと足音が遠ざかる。


『ジュナ、放課後宜しくね、だって。完全にタメ口だな。五十年前に女子から王子様だと崇められていたお前が、今やタメ口だからな。時代は変わったものだ』


『ハカセこそ、ヴァンパイアだと自ら告白しているのに、彼女に信じてもらえなかったくせに。しかも変装マニアだなんて。ククッ』


『煩い。俺は吸血してねぇから、今は人間に生き物なんだよ。ジュナみたいに呪われた幽霊とは違うんだよ』


 呪われた幽霊か……。


 その呪いを解くためにも、彼女との繋がりを絶つわけにはいかない。

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