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「それ、どういう意味ですか」


『何十年も待って、かと思ったまでだ』


「……っ、失礼ね」


『君は真実を知っても、俺が怖くないのか? 悲鳴を上げて美術室から逃げ出さないのか?』


「幽霊は怖いですよ。だけど……唐沢先輩はあたしのイメージにピッタリなんです」


『どんなイメージだ?』


「風の妖精、ていうか天使」


 教室の隅でゲラゲラと声がした。振り向くと黒いマントを靡かせヴァンパイアに扮した男が立っていた。


『ジュナが妖精? あはは、天使? コイツは悪魔だよ。美少女を恋に酔わせ、絵画に魂を封じ込める。要するに殺人鬼だな』


『随分な言い種だな』


『俺は嘘は言ってない』


「あなたは誰ですか!?」


『君は俺が見えるのか。やはりジュナや俺より霊能力が勝っているな。俺の名はハカセだ』


「博士? 化学の先生ですか? 黒いマントだなんて、演劇部の顧問ですか? それとも変装マニア?」


『この俺が変装マニアだと!? 俺はジュナと同じ学生だ。確かにここ数十年生き血を飲んでいないから、肌の艶は失われているが、君の新鮮な血を飲ませてくれれば、すぐに艶やかな肌に戻ることが出来る』


 ハカセの口から鋭い牙が覗く。


「……っ。それ、芝居で使う牙ですよね? でも台詞はイマイチですね。高校生にはウケないと思いますよ。そのマントも遮光カーテンみたいでダサい」


『遮光カーテン!? 俺は演劇部の顧問でも、部員でもない。俺は伯爵、生粋のヴァンパイアだ』


「ヴァンパイア!? やだ、嘘つかないで。あなたも霊感があるんですね。唐沢先輩が見えるんだから。なーんだ。美少女じゃなくても見えるんだね」


 俺とハカセを目の前にして、彼女はケラケラと笑った。なんて図太い女子なんだ。


『ジュナ、こいつはかなり手強いぞ。霊感プラス天然。俺達が最も苦手とする最強霊感少女だ。とても太刀打ち出来ない』


『そのようだな』


『霊感は強いが、頭のネジは弱い。お前の理想とはかけ離れている。残念だったな、彼女は諦めろ』


『この機を逃すと、また何十年も待つはめになるかもしれない。この際贅沢は言ってられない』


『それもお前の運命だよ』

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