ジュナside

17

 ――翌朝、いつものように美術室にいると廊下でバタバタと足音がした。


 まるで何かにとり憑かれたような、狂気に満ちた足音だ。バンッと大きな音とともにドアが開き、髪を振り乱した風見流音が立っていた。


「唐沢先輩。おはようございます!」


『おはよう。まるで山姥みたいだよ。何を慌てている』


「本当は昨日確かめたかったの。だけど先生も他の部員もいたから聞けなくて!」


『はいはい、そんなに矢継ぎ早に喋るな。鼓膜がキンキンするだろう』


「率直に聞きます! 唐沢先輩は幽霊部員ではなく、本物の幽霊ですか?」


 流音の質問に俺は我慢出来ず、『ププッ』と吹き出す。


『本物の幽霊ですか? なんて女子に聞かれたのは初めてだな』


「唐沢先輩、笑わないで下さい。あたし、大真面目なんだよ」


『だったら逆に聞くけど、俺が幽霊に見える?』


 俺は流音を見つめる。流音は口ごもりながら、脚をまじまじと見つめた。


「脚……あるし」


 俺は流音の前で、長い脚を組んでみせる。


「その脚……触っていいですか?」


『ボディタッチはお断りだな』


「……ですよね」


『俺に聞きたいのはそれだけか?』


「いえ、唐沢先輩が幽霊部員でも、幽霊でも関係ないわ。唐沢先輩にお願いがあります」


『体を触る以外なら、何でも言ってみろ』


「あたしの人物画のモデルになって下さい」


『この俺がモデル? 俺は誰のモデルにもならないよ。大体昨日君は俺を悪霊と決めつけ、日本の幽霊や西洋の妖怪のようなバケモノの絵を描いただろう』


「えっ?  あたしは唐沢先輩じゃなくて、ジュナを描いたんだよ」


 シマッタ……。

 自ら、幽霊だと認めてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る