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夏崎なつざき先輩、吾川あがわ先輩、美術室の悪霊見たことありますか?」


「悪霊?」


『悪霊!? この俺が悪霊だと!?』


 唐沢先輩は憤慨したように、声を荒げた。

 確かに、幽霊部員でも失礼極まりないのに、悪霊と一緒にされたら誰だって憤慨するよ。


「あなたたち、学校の怪談話を信じてるの?」


「はい! ていうか、美術室の悪霊って、めっちゃめちゃイケメンなんですよね」


 千秋はポケットから取り出したビスケットを口に頬張りながら、満面の笑みだ。ていうか、喋るか食べるかのどちらかにして欲しい。


「ジュナの自画像とかないのかな? 本当に美男子なのかこの目で見てみたい」


「ジュナは美少女は描くけど、自画像は描かなかったそうよ。勿論他人にも描かせたことはないわ。噂では超がつくくらいのナルシストだったみたいね」


 へぇ、幽霊がナルシスト?

 五十年も前の話なんて、誰も知らないでしょう。一体誰がそんな噂話を流してるのかな。よほどの嘘つきか暇人だ。


 悪霊とか、ジュナってそんなイメージだったなんて意外。


 あたしはフルーツのデッサンを描く手を止め、妄想でジュナの似顔絵を描く。


 もしかしたら四谷怪談のお岩さんみたいな感じかな?

 日本の幽霊ならろくろ首とかのっぺらぼう。

 それともヴァンパイアや狼男、フランケンシュタインみたいな西洋の妖怪?


 鉛筆でサラサラと描いていると、背後から女子の陰口が聞こえた。


『なぁにアレ? あの子、この神聖な美術室で化け物描いて遊んでるの?』


『うわぁ、キモチ悪い。あんな生き物、この世にいないわよ。霊の存在を愚弄してるわね』


「化け物じゃないよ。これはジュナ、もう死んでるんだから。美術室の悪霊なんだってば」


『きゃあ、あ、あれがジュナ様ですって!? この女、バカじゃないの? ジュナ様は絶世の美男子。バケモノはあなたの方よ』


「あたしがバケモノ? あんた、誰?」

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