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『君、俺に話し掛けない方がいいよ。君もシカトされるから』


 だって俺は、正真正銘の幽霊部員だから。


「シカトなんて怖くありません。でも唐沢先輩の立場がさらに悪くなるのなら、暫くは黙っています」


『それが得策だな』


「やだ、流音。何一人でぶつぶつ言ってるのよ」


「一人で? 千秋まで何言ってるの?」


「何って?」


「千秋まで虐めに加担するの?」


「は? 虐め? それより空野そらの君も美術部だなんて驚いたな。流音が誘ったの?」


「あたしが? まさか。こんなヤツ、誘わないよ」


 空野澄斗そらのすみとはどうやら彼女の知り合いらしい。


 イケメンだけど壁の人物画をチラッと見て、背を向けた。絵画の美少女と目を合わせないようにしている。


 あの美少女たちに興味がないのか?

 まさか怖いとか?

 美少女たちは、美男子の空野に興味津々だけどな。


 彼女は空野の背後にそーっと回り、肩をポンッと叩いた。


「ひゃ、ひゃ、ひゃー!!」


 空野は腰を抜かし、床にへたり込む。


「相変わらずだね、澄斗は。あの噂が怖いの? 怖いくせに美術部に入部したの?」


「噂話なんて怖くないさ。学校の怪談なんて誰かの作り話だ。バ、バカにするな。俺は鞄に躓いただけだ」


 空野は立ち上がり、教室の隅々を見渡す。俺は空野の目の前に立っているが、どうやら俺の姿は見えないらしい。


『フゥー』と息を吹き掛けると、空野は亀のように首を引っ込めた。


「やめろよ、流音。ふざけんな」


 彼女を名前で呼ぶとは、二人の関係は親密なようだ。


 何故か、面白くない。

 俺のターゲットに男の影があるとは。


 ――『心身ともに清らかな美少女』


 俺の理想が砂山のようにパラパラと崩れ落ちる。

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