10

『ジュナ様、悪戯が過ぎますよ』


 絵画の美少女が俺を見て笑っている。


 絵画からスーッと手が伸び、男子の足を掴んだ。男子はズデンと大きな音を鳴らし床に突っ伏す。


 まるで潰れた蛙だな。


 クスクスと絵画の美少女達が笑ってる。


「うわぁ、足が動かない! 足がぁ……足がぁ……」


『正子、離してやれよ』


『そうね。私のタイプではないもの。私の王子様はジュナ様ただ一人よ』


『ありがとう。正子』


 正子の頬にチュッとキスをすると、正子は掴んでいた男子の足を離した。


「ぎやあぁぁー……」


 男子はアタフタと美術室から逃げ出した。


 ◇


 ――放課後になり、美術室に部員が集まる。


 二年生僅か三名。部員不足で美術部から美術同好会に成り下がったが、今日は見掛けない顔が三名もいる。


 どうやら一年生が仮入部したらしい。全員正式入部すれば、同好会から美術部に返り咲きだ。


 だが、朝見掛けた女子はその中にはいなかった。この一年生があと何日持つのかな。


 顧問の柿園先生が笑みを浮かべ、一年生を歓迎する。授業中は泣き面だったが、どうやら男子生徒とは和解出来たようだ。


 二年生の部員は相変わらず暗い。

 絵画の美少女よりも存在感はない。


 ドカドカと廊下で靴音がした。まるで恐竜が走っているようだ。後ろのドアが勢いよく開いた。


「遅くなってすみません! 風見流音、美術部に入部します!」


 美術室が一瞬シーンとする。それも当然、場違いも甚だしい。


「遅いよ、流音」


「そうだよ、流音が美術部に入部しようっていうから、あたし達付き合ってるんだからね」


 なんだ、この新入生はあの騒がしい女子生徒の友達か。


 人気のない美術部に、一気に三名も仮入部だなんておかしいと思ったんだ。


「唐沢先輩、宜しくお願いします」


 彼女は俺を見て頭を下げた。やはりこの俺が見えているようだ。


 二年生の女子が顔を見合せる。


「やめてよ、唐沢君は幽霊部員だよ」


「幽霊部員?」


「美術部員だけど部活には来ないの。イコール幽霊部員。履歴書に書きたいために美術部に入部してるだけ。ていうか、今は美術同好会だけどね」


 彼女は小声で俺に囁いた。


「ここに来てるのに幽霊部員? 唐沢先輩シカトされてんの? 可哀想ー……」

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