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理想にかなった女子は自己主張することなく、黙って俺の前に座り、人物画のモデルになる。今までは全てそうだった。
ところが、突然現れた彼女は鼻をヌッと突きだし、俺をじっと見つめた。
もう挨拶のキス?
初対面なのに? 随分積極的だな。
「唇にカラカラの絵の具がついてるよ。さっき壁の人物画の頬にキスしたでしょう。あなた、人物画フェチ? それとも変態? もしくは欲求不満? 乾いた絵の具が唇につくほどのキスをするなんて、やっぱりド変態だよね」
この俺が変態だって?
絶世の美男子だと言われているのに?
「あのさ、あなた何年生? 美術部なの? あたしと同級生かな?」
『俺は二年、美術部だけど。君は?』
「やだ、先輩なの!? す、すみません。あたしは一年、風見流音。今日から美術部に入部します!」
『君は美術部では見かけない顔だね。入部届けは顧問の先生に出さなければ認められないよ』
「わかりました。そうします。先輩の名前を教えて下さい」
『
「唐沢先輩、逃げないで下さいね」
逃げる?
どういう意味だ?
彼女は一方的に捲し立てると、俺に背を向け美術室を飛び出した。
なんて女だ。
こんな女子に、この俺が見えるなんて信じられない。
容姿はフツウだし、見るからに健康そのもの、外見はまあまあだが、性格は純情可憐どころか図々しいし最悪だな。
壁の人物画がカタカタと揺れている。
『ハカセ、そこで笑っていないで、出てこいよ。全部見ていたんだろう』
一匹の鼠が額の裏から飛び出し、瞬時に人の姿に戻った。
『くくくっ、何だあれ? 外見と性格のギャップ、ありすぎねぇか? 俺は新鮮で健康的な血液の保有者なら、誰でもウェルカムだ。性格は血の味に影響しないからな』
『何で彼女に俺が見えるんだよ。信じられないな。何かの間違いに決まってる』
『答えはひとつ。彼女の霊力が、お前の霊力より勝ってるんだよ。お前の不思議な霊能力は彼女には通用しねぇかもな』
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