ジュナside

『いいね、あれ。色艶のいいピチピチした肌。健康そうなピンク色の頬、艶やかな唇。吸い付きたくなる』


『ハカセ、俺が先に見つけたんだ。手出し無用』


『彼女にジュナが見えるのか? ジュナが見えるのは、お前の理想に合った女だけ。心身ともに清らかな美少女だ』


『見てろ。彼女はもうすぐここに来る』


『自信満々だな。彼女が理想とかけ離れていたら、俺にくれよ。たまには化学薬品ではなく、新鮮な生き血を摂取したい』


 美術室の壁に飾られている人物画は、全てこの学園の女子生徒。俺が描いたものだ。


 人物画の女子生徒が『ふぅっ』とピンク色の溜め息を吐く。


『ジュナ様、浮気しないでね』


『いつになったらハグしてくれるの?』


『ジュナ様、ジュナ……。こっち向いて。いやん、素敵』


 ハカセは黒いマントを翻し、呆れたように人物画に背を向け、美術室を出て行く。


『晶子、そんなに騒ぐなよ』


 俺は一枚の人物画に近付き、頬に唇を重ねた。キスをすると乾いた絵の具が剥がれ唇につく。


 ――バンッと大きな音を鳴らし、美術室のドアが開いた。壁の人物画がガタガタと音を鳴らす。


 ドアに視線を向けると、そこには真新しい制服を着た女子生徒。


 さっき校庭を歩いていた女子だ。

 やはり俺が見えていたのか。


 彼女はツカツカと美術室の中に入る。壁に掛かっている九枚の人物画を見上げた。


 画の中に魂を封じ込めた美少女たちは、じっと動かない。彼女が背を向けると、ギョロギョロと眼球だけを動かした。


 彼女は窓際にいた俺にツカツカと歩み寄った。俺の理想の女子は純情可憐で尚且つ心身ともに清らかな美少女だ。


 純情可憐でないと魂が体からスムーズに抜けず、魂を人物画に封じ込める直前に死んでしまうから。

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