「純情可憐な美少女でなくて、悪かったわね」


「流音はそれでも美術部に入部するの? ジュナが棲み憑いているのに? 呪われてもしらないよ」


「だから、幽霊なんてこの世には存在しないし。あたしは幽霊なんて信じないから」


「じゃあヴァンパイアは? 放課後化学室を覗くと、血を抜かれちゃうんだって。献血するみたいに抜くのかな? ヴァンパイアに献血って、どうよ」


「千秋は本当にくだらない。この学校はホラーの巣穴かっつーの」


「はいはい。ジュナはさ、絶世の美男子なんだって。最強のイケメンらしいよ。ちょっと逢ってみたいね。あたしも美術部に入ろうかな」


「フルーツやスイーツばかり描いて、あとで食べるつもりでしょう」


「バレた? いいね、それ。ケーキやクッキーを描いて、お腹いっぱい食べたいわ」


 千秋はポケットからビスケットを取り出し、パクパク食べている。


 ポケットはお菓子でパンパンだ。まるで小学生。


 校庭を歩きながら、ふと見上げた古い校舎。四階の窓際に誰かが立っていた。栗色の髪が、開け放たれた窓から入る風にさわさわと揺れている。


「きれい……」


 思わず男子に見とれた。


 もうすぐ春の絵画コンクールがある。ちょうど人物画のモデルを探していたところだ。


 あたしのイメージにぴったりで、まるで風の妖精みたい。


「千秋、先に行くね。教室で待ってて」


「流音、行くって何処行くのよ? 流音ってば」


 彼を逃がしたくない。


 彼を逃がしたら、イメージ通りのモデルなんて、二度と見つからない。


 春の絵画コンクールは小学校の時に優秀賞をもらった。中学校でも受賞し二連覇を目指す。


 あたしは息を切らし階段を駆け上がる。理想のモデルを捕まえるために。

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