もうひとつは、化学室のヴァンパイア。


 ハカセという名のヴァンパイアが、放課後化学準備室で血液に代わる飲料を開発していて、その実験を見てしまった者は、身体中の血を抜き取られて殺されてしまう。


 ハカセは血液型A型の女子生徒を好むらしく、吸血された生徒は生き返りハカセの下部しもべとなる。


 ハカセの魔の手から逃れるためには、やはり血液型A型の女子生徒を自分の身代わりに差し出さなければいけない。


 ――という、誰が聞いても生徒の誰かが面白がって創作した怖い話ばかり。


 全部紹介するには至らないほど、低レベルでくだらない怪談話だ。


「知ってる? 美術室の壁に飾られてる人物画はジュナが描いたもので、魂が吸いとられた女子生徒らしいよ」


「バカみたい、それじゃあ南仏中学校ではなくお陀仏中学校おだぶつちゅうがっこうだよ」


「五十年前にジュナが不慮の死を遂げ、あとを追うように、絵のモデルになった女子生徒が次々死んだんだって。それって偶然じゃないでしょ」


「あたしはそんな怪談話は信じないから」


「だよね、もしもジュナが実在していたとしても、流音には見えないよ」


千秋ちあき、それどういう意味?」


 三堀千秋みほりちあきはポッチャリ系女子。食べることが何よりも大好き。


 あたしは風見流音かざみるね、絵を描くことが何よりも大好き。


 小学校も美術クラブで、コンクールや絵画展で何度か受賞したことがある。ていうか、賞を獲ることが生き甲斐といっても過言ではない。


「千秋、どーいう意味かって聞いてるの」


「ジュナが見えるのは、純情可憐尚且つ清らかな美少女だからだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る