『彼女が霊能力者だというのか? しかも俺よりも勝ると? 馬鹿馬鹿しい。俺より勝る人間などこの世にはいない。俺は彼女の魂を絵画に封じ込める。十人の美少女を絵画に封じ込めれば、俺はこの世界に甦ることが出来るんだ』


『ほほう、その十人目の美少女が彼女だと? もしも彼女の魂を封じ込めることが出来なければ、お前は別の女を探せばいい。彼女が不要になればいつでも俺がもらい受ける。彼女なら最強のヴァンパイアになれそうだ』


 俺は右手の指先で絵筆をくるくると回す。


『俺に不可能はない。だが万が一失敗したら、ハカセの好きにしろ』


 絵筆についた赤い絵の具が、ハカセの顔面に飛び散る。


『うわ、ヴァンパイアの俺に血を連想させる赤い絵の具をまき散らすとは、嫌がらせか?』


『ヴァンパイアらしくメイクしてやったんだよ』


『何がメイクだ。これじゃてんとう虫みたいだろ』


 俺はハカセの顔を見てクツクツと笑う。


 あの女子の性格は正直好きではない。

 俺は謙虚で慎ましい大和撫子が好きなんだ。


 だが、彼女の容姿は悪くはない。この学園でトップクラスとはいえないが、口さえ開かなければ美少女の部類に入らなくもない。


 俺が何故、幽体となった今もこの美術室に棲みついているのか、それには悲しい理由があった。


 ◇


 ―五十年前―


 この学校の生徒だった俺は、霊感が強いばかりに学校にうごめく無数の地縛霊が見えた。


 やがて悪霊と化した地縛霊たちは、霊力のある俺を恐れ、放課後美術室で絵を描いていた俺を捕らえ呪いをかけようとした。


 命からがら逃げ延び、車道に飛び出した俺の目の前には、大型トラックが迫っていた。


 悪霊に呪われるくらいなら、転生して勇者になってやる!


 悲鳴のようなブレーキ音とドンッという鈍い衝撃音。体が宙を飛び、地面から無数の黒い手が伸び俺の体を掴んだ。


 ――そう……俺は失敗したんだ。


 トラックに跳ね飛ばされたが、転生するどころか、俺の体は奴らに捕らわれてしまった。


 ――俺は悪霊に呪いをかけられ幽体となる。


『美少女十人の魂を抜き取り絵画に封じ込めることが出来たなら、お前の呪いはやがて解けるだろう。この世に甦りたければ、美少女の魂を絵画に封じ込めろ』


 俺をこの世から消し去ったことで、奴等は俺の霊力を封じ込めたつもりだった。


 ――だが……

 俺は幽体となったことで、さらに彼等より勝る力を持った。

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