199412①
全国地域サッカーリーグ決勝大会でもSC鹿児島の快進撃は続いていた。全勝で1次ラウンドを突破し、決勝ラウンドに進出。決勝ラウンドの相手は東北電力、福島FC、横河電機の3チームである。
決勝大会は1次ラウンド、決勝ラウンド共に3日間で3連戦を行う過酷なスケジュールとなっている。NFL昇格の条件である2位以内に入れるかは、3連戦の初戦で勢いにのれるかにかかっていた。
初戦の相手は東北電力。後にブライル仙台を経てベルタ仙台へと連なっていくチームであり、今大会でも優勝候補筆頭の評価を受けていた。SC鹿児島とのこの試合は事実上の決勝戦と目されていた。
試合は互いのプライドをぶつけ合う、スリリングな展開を見せることとなる。
SC鹿児島は4-3-3、東北電力は3-5-2のフォメーション。東北電力は中盤を厚くし、鹿児島の中核である宮原を押さえ込もうというゲームプランである。
東北電力の中盤は開始早々から全力でプレスをかけ、その圧力で前半半ばまで東北電力が押し気味にゲームを進める。
鹿児島はミドルサードまではボールを回すのだが、なかなかアタッキングサードで勝負ができなし。宮原、藤堂を中心に、少ないタッチで広くピッチを使い、見事なボール回しを見せるのだが、なかなか状況を打破できないまま時間だけがが流れていた。
試合が動いたのは前半半ばを過ぎた頃。スキベの指示で鹿児島がDFラインを上げる。FWからDFまでの距離をコンパクトにし、局面局面で数的優位を作ったことで東北電力のパスコースを限定。そのパスをことごとく宮原が奪い、ショートカウンターを仕掛け始めた。
DFラインを上げたことで、鹿児島の自陣ゴ-ル前にも大きなスペースが生まれたが、そのスペースを東北が使う前に宮原が相手選手をことごとく潰し、奪うやいなや速い縦パスを送り込み、相手DFラインを押し込める。
浮き玉のパスに、抜け出した赤崎が合わせたシーンは惜しくも相手GKのファインセーブにあうが、確実に東北電力守備陣に恐れを与え始めていた。
赤崎を狙った浮き球スルーパスで、東北電力の意識が中央に集まりだしたことを察知した宮原は、今度は両サイドに散らし始める。全体がコンパクトになったおかげでSBが上がりやすい状況となっており、サイドでも数的優位の状況を創出することに成功。
序盤から鹿児島はミドルサードまでではあったが、ピッチを広く使ってボール回しに終始していた。東北電力は中盤を制するためにそのボールを追い回し、鹿児島に決定機こそほとんど与えていなかったが、序盤の流れは鹿児島側が意図的に作り出したものであった。
ボールを回した側と回された側。明らかに回された側はスタミナに不安が生じ、そこに数的不利の状況が加わる。東北電力はその両サイドを蹂躙され、鹿児島に次々と決定機を献上。
守備陣が必死の形相で奮闘し、両サイドハーフはDFラインに吸収された。実質5バックで守ること十数分。なんとか前半を耐え切れそうだと思った瞬間であった。
鹿児島の猛攻の前で、中盤が完全にDFラインに吸収され、空けてしまったバイタルエリア。それまで自陣のスペースのケアのために前線に上がってこなかった宮原が一陣の風となって進入し、右足を一閃。
フリーで放たれたミドルシュートはネット右上に突き刺さる。前半ロスタイム、東北電力にとっては最悪の時間での失点であった。
その精神的ダメージはハーフタイムでは修正できず、後半は鹿児島の独壇場となるり、スコアじゃ5-0。SC鹿児島の完勝であった。
その後、SC鹿児島の勢いは留まることを知らず、残り2試合を勢いのまま連勝。無敗で優勝を決め、危なげなくNFL昇格を勝ち取った。
この日、鹿児島初のNFLクラブが誕生した。
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