episode3
あれから、移動教室の時も休み時間も出来るだけ王子に話しかけるようにした。これならばリリアンヌに似せる事が出来る為他から怪しまれる事もない。
授業は習得している分野ばかりだったので復習になった。あっという間に時が過ぎ、下校時刻となる。私は急いで「フィロナンテ」として王宮に行かなければならないで、セルヴェスに「では、御機嫌よう」と挨拶だけして早急に馬車に向かった。
セルヴェスが目を見張っていたのには気が付かずに。
**
私は将来、セルヴェス付きの専属騎士になる為にベルモニー王国立騎士学校に通っている。ベルモニー王国立騎士学校は、完全実力制である為、身分は通用しない。それ故に、自分が侯爵家の人間だからと言ってセルヴェスの従者にはなり得ないのだ。私は必死で剣術や武術を身に付けた。
幸い剣術の才が芽生え、今では学園トップクラスの実力を保持する事が出来ている。セルヴェスの従者を既に今務めているので、彼の専属になるのはほぼ確実と言っていいだろう。学校長から直接言われたので間違いない。セルヴェスがどうやら推薦してくれたようだ。とても助かった。
そんな訳で、そうやって就職先が決まっている者は座学は必修ではなくなるし、学校にも来なくて良い。なのでセルヴェスにも、フィロナンテの動向が不自然だと言われる事もない。
だからと言って自主練習をしなくて良いという事にはならないので、週に1度、学校長と模擬戦をしなければならない。学校長は現役中の近衛騎士団長で、どんなに優秀な生徒でも、彼との初戦は一振りされただけで敗れてしまう。前回より成長していなければ学校長より制裁が下る。よって嫌でも以前より鍛錬を積まないといけないのだ。
セルヴェスの執務室に顔を出せば、速攻彼に模擬戦を頼まれる。
「フィロ、ちょっと付き合え」
「はい」
セルヴェスはそこら辺の近衛騎士よりも強い。だから本来護衛騎士など要らないのだが、彼が私を必要としてくれることに喜びを感じていた。私を真に必要としてくれる人はいなかったから。
木剣を構え、付いてきた近衛騎士の始めの合図でお互いに斬り掛かる。剣と剣のぶつかる、天が割れるような響き。お互いに引けを取らず、攻防を繰り返す。
カンカンカンカンカンカンッ!!!
額に汗を滲ませ、好戦的な視線を注ぐセルヴェス。私はそんな彼を戦友のように思っていた。セルヴェスと剣を撃ち合うのはとても楽しい。心が踊る。
埒が明かないと思ったのか、セルヴェスはボソボソと口元を動かす。――――魔術だ。
魔術を使う際には、詠唱しなければならない。きっと最初は彼の属性の水を使ってくるだろう。
ほら、使ってきた。
水の矢が勢いよくこちらに一斉に飛んでくる。当たれば大怪我だ。飛ぶ距離が遠い程加速するこの矢は、宮廷魔術師も舌を巻くほどの完成率だ。
だが、私は彼とは何度も剣を交えている為、セルヴェスの戦い方のパターンは読めている。私は目の前に来た矢だけを払い、走ってセルヴェスに近づく。
ここまではいつもとそんなに変わらない。
私は僅かに口元に笑みを浮かべ地面を蹴って上に飛び、剣を上から振り下ろす。
がっ!!!
鈍く重い音が空気を震わせ、セルヴェスは眉を顰める。私は彼の剣を払って少し距離を取り、剣の先でちょいちょいと彼を煽った。
それを見たセルヴェスは右に持っていた模擬剣を握りしめ、ニヤリと口元を歪めると、詠唱をしながら斬りかかってきた。空気を斬る音が耳の中を通り抜け、私はその剣先を、剣を持っていない左手で地面をつき、側転をしてひらりと躱した。
そしてセルヴェスの死角に潜り込み、後ろから木剣の先を彼の首元にピタリと付ける。
セルヴェスは模擬剣を離し、降参だと両手を上に持上げる。
審判をしていた近衛騎士は、暫し唖然としていたが、「そこまで!」と直ぐに締めた。
私はゆっくりと首元から剣先を下ろす。振り向いたセルヴェスは呆れた顔をしていた。
「本当にお前は身軽だな」
「それを得意とはしていますよ?」
「はぁ、私もまだまだだな。お前はまだ魔術を使っていないのに、お前には1度も勝てた事がない」
「ははっ、ありがとう。でも、セスは十分に強いと思う。僕も危なかったよ」
「………私が王族だから魔術を使わないとか考えているのだったら、怒るぞ」
「セスにそんな事したらいけないって分かっているので、しませんよ」
「ならいい」
嘘だ。
私は、彼が王族だからとかそういう以前に、もっと根本的な理由があって魔術は使っていない。
私は――――魔術が使えない。
この世界の極一般的な魔術は、自分の持っている魔力と、空気中に含まれる魔素を組み合わせて使う。そうして融合され、完全燃焼された時に魔術が発生するのだ。
しかし、私には魔力が一切無い。
空気中の魔素だけで魔術が使えるか使えないかと言ったら少しは使える。
ただ、魔力と共に使うのよりかは圧倒的に弱く、不完全燃焼の為に成功率を上げるのも難しい。
だから私は魔法騎士になる為の講義は取っていなかった。しかし、だからと言って魔術を全く習わないという訳ではないので、セルヴェスは私が魔術を使えると信じて疑わないのだが。
この世界は魔力の多さがものを言う。
魔力が無いということは、「呪われ子」として疎まれる。
1度セルヴェスに、本当の事を言おうとも思った。
私のこの瞳は本当は片方赤色で、魔術なんて使えない、と。
でも、セルヴェスがそれで今までと同じように仲良くしてくれるとは断言できなかった。
きっと彼も私を嫌う、そう真っ先に思ってしまったのだ。
多分私は自分が「呪われ子」だと言うことを墓場まで持っていくだろう。
セルヴェスの「魔術を遠慮なく使え」という台詞。魔術を使えたらどんなにいいだろう。ずきりと胸の奥が傷んだが、私はセルヴェスの「行くぞ」と、執務室に引き上げる声がした為、そこには蓋をして気が付かないふりをした。
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現在執筆中の「何故~」ですが、コンテストに応募することにしました!
是非宜しくお願いします!
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