やっぱり、ちゃんと話そう

「う、確かに……」

紡の言葉に、思わず言葉に詰まる。確かに、親に無断で紡をお迎えしたことをずっと隠し通すこともできないだろうし、もしばれてしまったら、最悪紡は家から追い出されてしまうかもしれない。でも、今姿を見せた所で、何と言われるだろうか……

5分ほど考え、私は結論を出した。

「わかった。色々長引かせるのも良くないし、ちゃんと話さないとね。紡ちゃん、ついてきて」

『はい!』

部屋のドアを開け、廊下を歩いて階段の前にたどり着いた時、私の頭に一つの疑問がわいた。

「あれ、紡ちゃんって階段昇り降り出来るっけ……?」

確か、紡のホログラム投影機には車輪が付いていて動き回ることができる。でも、階段の昇り降り出来るようなシステムは見た感じ無かったような……?

どうやって彼女を下に連れていこうか悩んでいた時、あるものが目に入った。

「これだ! 紡ちゃん、これに乗って!」

私は階段の横についていた昇降機に紡を乗せた。私が幼い頃、曾祖母の介護に使っていたらしいけど、今では荷物や怪我した家族の運搬に使われている。

『これは……?』

「階段を使わずに昇り降りできる機械だよ。紡ちゃんに使い方教えるから、移動はこれを使って欲しいな」

『未来さん……お気遣いありがとうございます! 急な段差を昇り降りするシステムがなくて、どうしようかと困っていたんです』

「よかった! じゃあ、動かすからしっかりつかまってね」

私はそう言って、昇降機のスイッチを入れた。ゆっくりとしたスピードで、下の階に向かって昇降機が進んでいく。1分ほど経ち、無事に下の階にたどり着いた。

「これでよし。じゃあ、まず私のお母さんに仕事終わってるかだけちょっと聞いてみるね」

『かしこまりました!』

私はドアを開け、顔だけ出してお母さんの姿を探した。

「お母さん、仕事終わってるー?」

「あら未来。仕事なら終わって今カレー作ってるわよ。あと15分くらいでできるかなって感じ」

「ん、わかったー。あとさ、ちょっと話があるんだけど、今大丈夫?」

「一応大丈夫だけど、どうかしたのかしら?」

許可が取れたので、紡をリビングに招き入れることにした。

「紡ちゃん、入っていいよー」

『はい! 失礼します……』

ドアを開けて、彼女がリビングに入ってきた、その時だった。

『ぎゃふん!』

「!? 大丈夫!?」

『あはは、ドアの段差につまづいて転んじゃいました……』

車輪が引っかかって、紡が転んでしまった。ぶつけた所のホログラムが、一瞬歪んでいるのがわかった。

「この子は……?」

「バーチャルシンガーソフト『言ノ葉紡』なの。詩音のお店で見つけて電球と一緒に買っちゃったんだけど……うちに置いてたらダメかな……?」

お母さんの返事次第では紡を返さなくてはいけないかもしれない。ハラハラしながら、お母さんが口を開くのを待った。

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