紡との出会い
放課後、私は詩音に連れられて、彼女の両親が経営する家電屋に来た。ヒビが入った電子教科書を直して貰うためだ。
「ただいまぁー」
「あら詩音おかえり……まあ未来ちゃん!
いらっしゃい。どうかしたの?」
「すみません、電子教科書の画面がヒビ割れてしまって……これ、直りますか?」
「どれどれ……あぁ、これぐらいなら直るわよ。あなたー、今手空いてる?」
詩音のお母さんがお父さんを呼んできてくれた。
「おっ、久しぶりに電子教科書の修理か。画面のガラスが割れてるだけだから、表面の取り替えで大体15分で終わりそうだな。未来ちゃん、よかったらうちで時間を潰して行きなさい」
「あ……ありがとうございます! 助かります!」
詩音のお父さんに電子教科書を預け、私はお店の中をゆっくり見て回った。
「そう言えばお母さんが電球切れたって言ってたっけ。ちょっと買っていこう」
棚から電球を取り出し、他の棚を見に行こうとした時、ある物が目に止まった。
「バーチャルシンガーソフト『言ノ葉紡』……?」
気になったのでパッケージを手に取り、じろじろ眺めてみた。パッケージの表面には可愛らしい女の子のイラストと、『素晴らしい音楽を、あなたとともに』というキャッチコピーが書いてあった。
「これは……?」
「ああ、これ? うちのお店でも少しバーチャルシンガーソフトを扱っているんだけど、この子だけ売れ残っちゃったみたいで。他のものより性能が劣っているっていうのもあるかもね」
私はもう一度、表面のイラストを眺めてみた。何だかイラストの女の子が、こちらを見て「私を引き取って欲しい」と訴えかけているようだった。
「未来ちゃん、電子教科書直ったよー」
「あ、ありがとうございます! それと、ついでといったらなんなんですけど、この電球とこのソフト、お会計をお願いします」
「あら、これでいいの? 機能が優れたソフトはまだ他にあるわよ」
「いえ、私にはこれがびびっときたんです。この子に、歌わせてあげたいんです」
詩音のお父さんとお母さんは顔を見合わせていたけど、しばらくしてお会計の手続きに入ってくれた。
「分かった。大事にしてあげなさい」
袋に入れてもらったソフトと電球、修理してもらった電子教科書を受け取り、私はお店を出た。
「お邪魔しましたー。詩音、また明日ねー!」
「じゃあねー未来ー! 気をつけてー!」
私は電子スクーターに乗り、家までの帰り道を少し急いだ。早く『言ノ葉紡』を動かしたくてたまらなかった。
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