第43話 裏切りは妹の名前を知っている



 酷い目にあった………。

 たった3分近くだったが、留萌先生に訴えてもギリギリ勝てないレベルの暴力を振るわれた。

 そして、今やっと解放されたところだ。あの童顔粗暴教師め……。いつか報復してやるぅ……。

 一緒にくらってた谷村はまんざらでもなかったけど、俺にはマゾの素質も年上好きの才覚もない。好きなのは妹だけだ。

 谷村の「なぁなぁ七宮っち、柔らかかったよな、なぁなぁ」というどうでもいい話を聞く前にその場を離れて、俺はいつものテリトリー、もとい(仮)かっこかり部の部室へと向かおうとしていた。

 廊下の角を曲がったその時、彼らに声かけられる。


「七宮、災難だったなぁ〜」


「留萌先生にケンカ売るとかあんた何考えてんの」


 声の主は南々瀬ななせ空閑くがだった。

 二人ともあの戦いを共に生き抜いた戦友だ。………なんて小っ恥ずかしくてこいつらの前じゃ言えないけど。

 でも、どうせこいつらも世界改変システム(勝手に命名した)で記憶がなくなってるんだろうなぁ。

 俺は憂鬱な気分で彼らに顔を向けた。


「………お前ら、なんでここにいんだ?」


「七宮を待ってたんだよ。ここ通ると思ってさ」


 南々瀬は得意げな顔をした。


「俺を……待ってた?」


「ほら、いろいろ説明した方がいいだろ?」


「七罪ちゃんはもう生徒会室いるから。あんたもこっち来た方が手っ取り早いんじゃない?」


「七罪が生徒会に拉致された、……だと!?」


「いやお前は生徒会をなんだと思ってるんだよ」


「テロ組織」


「それは絶対違うだろ!?」


 南々瀬が盛大にツッコミを入れる。


「ま、とりあえず行こうよ。詳しいことはそれからってことで」


 空閑が歩き出す。それに従って南々瀬も歩きだし、仕方ないなと自分を納得させて俺も着いて行った。



          ◇◇◇



「うにゃー!! ベルちゃんやっほっほーい!!」


 生徒会室の扉を開いた直後にこっちに何かが飛び込んできた。


「うがぁ!?」


 俺はその弾丸のような飛び込みを避けることが出来ずにモロにくらってしまう。

 少しの目眩を覚えながらも顔を上げると、そこには生徒会長の立花たちばな会長の姿がそこにあった。


「おひさしぶりぃ」


「ど、どうも」


 にひひと笑う立花会長。生徒会長のテンションには未だについていけない。俺は立花会長をよいしょ、と除けてから立ち上がり、生徒会室の中を見渡す。

 見ると、空閑や南々瀬は俺のことは無視してすでに自分の席へと座っていた。どうやら生徒会副会長の千輝ちぎら先輩やスク水の具現化である風弥かざみ先輩はいないようだ。

 そして、空閑の隣に座っていたのは我が妹の───


「七罪っ!!」


「お兄さん」


 七罪はにこっと笑ってみせた。


「無事だったんだな……。良かった……」


「お兄さんは生徒会の皆さんをなんだと思ってるんですか……」


「悪の組織」


「だから違うって言ってるだろ!?」


 さっきと同じように南々瀬がツッコミを入れる。これがいわゆる天丼ってやつだ。

 俺は七罪の隣の席に腰を下ろして、口を開いた。


「それで、なんで俺たちは呼び出されたんだ?」


 俺が予定調和のようにその質問を口に出すと、立花会長が部屋の中心に立ってから、いたずらっぽい顔でにやけてみせた。


「ベルちゃんとなっちゃん。今日、何か違和感を感じなかったかな?」


「違和感……?」


 そんなの、ありまくりだ。周りの環境全てが違和感と化していた。

 みなの記憶が改変されて、あまつさえ俺は校庭のど真ん中でとんでもない告白をしてしまったと歴史が改竄かいざんされている。おかしい。おかしいとしか言えない。

 というか────


「あれ………? もしかして立花会長は、……覚えてるんですか?」


「うん」


 立花会長は当たり前だと言うようにうなずいた。覚えているのは、七罪と俺だけじゃないのか。どういう法則なんだ、なんて深く考えなくても、すぐに答えは導き出せた。

 ─────なるほど。


「異能力を持ってるやつは記憶が消されてないのか………」


「そういうこと」


 空閑が肯定する。


「七宮は『女神憑めがみつき』がどんなものか、知らないんだよな」


 思考を巡らし戸惑いながらも、俺はそれに頷いてみせた。


「俺たちみたいな異能力、超能力を持ってるやつを女神憑きって言うんだ。まぁ、言わなくても分かるとは思うんだけど、俺たち女神憑きには全員ひとりひとり女神が憑いてて、だから女神憑きって呼ばれてる」


「なるほど……」


 俺には七罪という女神が憑いている、というわけか。


「それで、その女神憑きの目的ってなんなんだ?」


 こほん、と立花会長がわざとらしく咳払いをした。


「それじゃあ、わたしが教えてしんぜよう」


 立花会長がカミナ兄貴のように腕を組む。


「女神憑きの役割、それは────」


 俺はごくりと息を呑んだ。




を倒すことなのだ!!」




「魔王………?」


 俺は七罪の方を見た。一応驚いたような顔をしているが、もともとこの事実を知っていたのか、本当に知らないのかは分からない。


「魔王ってゲームとかフィクションでよくあるあれか?」


「ざっくり言っちゃえばそんな感じだな」


 南々瀬が机に手を置いて頷く。


「この前の、ほら。学校を襲ってきたやつ。あれも魔王のしわざ」


 うん………?


「ちょっと待てよ。あれって壱定いちじょう先輩が起こした事件じゃなかったっけ? ってことは壱定先輩が魔王ってことか?」


「いやいやあれはサダは魔王じゃないよー」


「さだ……?」


「サダは壱定さだめって言うんだー。だからサダ」


「な、なるほど……? それで、壱定先輩が違うってのは……」


「わたし、彼に審問したからね」


 立花会長はうすっぺらい胸を張った。すると、南々瀬がこちらを見て口を開いた。


「会長には〈真実〉の女神が憑いてるんだ」


「あぁっ!! トッキーそれわたしが言おうとしてたのにぃ!!」


「すみません会長、話が進まないような気がして」


「むぅ……」


 立花会長が頬を膨らます。見た目から言動の全てまで子どもっぽいよなぁ。でも、真実って………。


「えっと、その〈真実〉の神技スキルで嘘かまことか分かるってわけですか?」七罪が問う。


「ま、平たく言えばそういうことかな」


 立花会長はケロッと機嫌を治しながらも肯定してみせた。

 ───そうか。思い出した。俺がこの前生徒会に拉致されて罪を問われた時、立花会長がじっと俺と目を合わせて嘘をついてるか否かを断言したことがあった。あれも立花会長の〈神技スキル〉ということなのだろう。


「あのドラゴンと戦ってた時の超人みたいな動きもその〈真実〉の力なんですか?」


「いや、あれは違うよー」


 俺の質問を空閑が否定する。


「あれは〈力〉の神技スキルだ」


 そして続けざまに南々瀬がまたしても答えを口を出した。


「もうまたわたしの言うセリフ奪ったなぁトッキー!!」


「すみませんって」南々瀬が苦笑いしながら立花会長をなだめる。


「えっ、〈力〉って……。さっきの〈真実〉はなんなんです?」


「ふっふっふ。何を隠そうわたしは〈神技スキル〉をいっぱい持ってるんだよ〜」


 立花会長は自慢げな表情で言い切った。


「〈神技スキル〉をいっぱいって……そんなのアリなのか!?」


 俺は自然と七罪に向かって言ってしまう。七罪は驚いたような顔を見せて「私も知りませんでした……」と言った。どうやら七罪も普通に知らなかったようだ。


「〈真実〉の女神が憑いてるわたしが言ってるんだからアリアリのアリだよ」


「それを言うならありよりのありでは?」空閑がツッコむ。


「そうかなぁ。アリアリのアリもアリさんいっぱいって感じでかわいいけどなぁ」


 そう言いながら立花会長が首を傾げた。

 その姿がどこか俺の妹スイッチに反応してしまったのか、可愛いと不覚にも感じてしまった。くそ、俺の妹は七罪だけなのに……。


「それで、だいぶ話がズレたけど魔王ってのは誰なんです?」


「それが分からないんだよねぇ」立花会長がサラッと言う。


「まぁ、そう言う予想はついてましたけどね」


「さっすがベルちゃんかしこいねぇ」


「正体分かってたらもう立花会長にボコボコにされてるでしょうし」


「そゆこと。だからこうやって手を焼いてるってわけ」空閑が頬杖をつきながら言う。


「今まで何回も魔王の攻撃を受けてるんだけど、一向に姿を現さないんだよなぁ」南々瀬が肩をすくめて言った。


「今まで、魔王って方からどんな攻撃を受けてたんですか?」七罪が聞く。


「う〜ん、いろいろあったよねぇ」


 立花会長が腕を組む。


「最近だとでっかいスライムとかありましたよね」南々瀬が少しだけ罰が悪そうな顔をしながら言った。


「ああ〜!! あの服溶かしちゃうやつねぇ。あの時は帰るのが大変だったよー」


「服溶かしちゃうやつぅ……!?」


 なんだそのToL〇VEるみたいな展開は。もはやテンプレすぎてきょうび見ないけどな。


「あればっかしはみんなの記憶がなくなって助かったけどな……」


「南々瀬、ほんとに見てないんだよね?」


「みみみ見てねぇよ! いやマジで!!」


 南々瀬がわかりやすく狼狽えた。おまわりさん、この人見たみたいです。

 立花会長がにやにやと口角を上げた。


「あとはみんな中身が入れ替わっちゃったやつとかねぇ」


 それもT〇LOVEるで見た。

 チャリオッツレクイエムとか君〇名はとかTSもの最近ちょこちょこ再流行してるししょうがないか。……ってそうじゃねぇな。


「有効範囲は狭かったですけどね。あれは……うん、思い出したくないなぁ〜」


「南々瀬、あんた……ほんとに見てないよね?」


「いやいやいや見てねぇよ!!」


 南々瀬はまたしてもキョドりだした。おまわりさん、やっぱりこの人何か見たみたいです。


「あとは、でっかいロボットがドンって出た時あったよね」


 それもToLOV〇るで見………てないな。


「動きませんでしたけどね。会長がワンパンしたら消えちゃいましたし」


「なんかさっきから起きてることが中学生の妄想みたいだな……」


「そうなんだよ。だからのは今までとあまりにも違い過ぎるんだ」


「今までこんなに死人が出たこと無かったもんね……」


 空閑が苦虫を噛み潰したような顔をする。


「ベルちゃんがいなかったらかなりやばかったかもね〜」


 立花会長は笑いながら言うが、その目は笑っていなかった。内心は助けられなかった人達への悔しい思いでいっぱいなのだろう。


「一応、これまでも魔王の影響で命を落とした人はいるんだな」


「ああ。超小規模だけど黒死病ペストが蔓延する事件とかゾンビ化する事件とかな」


「なんだそのパンデミックは!! 大事件じゃねえか!! どうしてニュースにならないんだ!?」


 そう言ってから俺は自分の発言のおかしさに気付いた。


「………そうか。みんなの記憶から消されるからか」


「そういうことだねー」


 立花会長がうんうんとうなずく。


「壊された建物とかはいつの間にか直ってる。でも死んだ人が元に戻ることはない。しかも誰がいなくなったのか、誰も覚えていない」


「こんなの……ほんとに許せない」


 わなわなと空閑が言った。


「そして、わたし達生徒会はひそかに魔王の攻撃を退けてる正義のヒーロー!! なんだよ?」


 立花会長がヒーローのようなポーズを決めたあとに上目遣いでこちらの反応を伺った。


「………で、俺たちに何を命令するんですか?」


「おっ、察しいいねベルちゃん」


「そりゃ魔王を倒すのが女神憑きってのの役割なら、俺にも順当に役割が振り分けられるはずですし」


「思ったより考えてるんですね、お兄さん」


「俺をなんだと思ってるんだ」


「「「「シスコン」」」」


「なにハモってんの!?」


 シスコンってハモるのも流行ってんのかよ……。まさかこの場にいる俺以外の全員の意見が重なるなんて。いや、嬉しいことじゃないか。妹のいない俺が真のシスコンになれたんだ。重畳ちょうじょうこの上ないな、はっはっは。


「それでチミたちにひとつ指令があってね」


 立花会長が話を戻した。


「ベルちゃんとなっちゃんにはね───」


 立花会長は俺と七罪、両方の目を見てから、口を開く。


「今まで通り普通に過ごして欲しいんだ」


「へ………?」


 思っていたこととは違うことを言われたので、俺は惚けたような間抜けな声を出してしまった。

 共闘して魔王を倒すとか、そんなことを言われるかと思っていたが……。


「魔王の正体は分からないままだしな。悔しいけど今まで通り様子を見るしかないんだ」


「だから、あんたらも別に魔王がいるからって変に気を張る必要はないってこと」


 空閑が言葉を付け足す。


「何かあったらわたしがなんとかするから任せてちょ」


「……分かりました。俺は七罪と一緒にいられればそれでいいので」


「すごい自然に言うねー。そういうとこ好きだよベルちゃん」


「どうも」


 そのタイミングでキーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴った。

 俺は立ち上がって、七罪を見て微笑む。


「んじゃ、もう行こうぜ、七罪」


「は、はい」


 七罪は一瞬だけぼーっとしていたようだが、すぐにこちらに気づいて立ち上がった。


「そうだ。ベルちゃん、一応ね言っとくね」


 立花会長がぱたぱたと俺のそばへと近づいて、


「魔王を倒した人は自分に憑いてる女神さまからひとつ願いを叶えてもらえるんだ」


「そうなんですか」


「反応薄いなっ!!」


 南々瀬がツッコむ。


「さっきも言ったけど、俺には妹がいればそれでいいから。叶える願いとか何もないな」


「言うと思ったよ。やっぱおもしろいねベルちゃん」


 立花会長は今までで一番大人っぽい顔をした……が、それでも、立花会長はどっからどう見てもロリ体型なのでアダルトな雰囲気は一切感じない。


「それじゃ、立花会長いろいろありがとうございました」


「うんっ。なっちゃんもじゃあねー!」


「はいっ」


 七罪が柔らかく笑った。

 手を振る空閑と南々瀬に他人行儀のように軽く会釈をしてから、俺は生徒会室の扉を閉めた。


 魔王………か。

 どんなやつなのか、一瞬だけ興味が湧いたけど、すぐに考えるのをやめた。


 隣を歩く七罪を見る。七罪もこちらをみて、目が合う。きょとん、とする七罪。やっぱりかわいいな。超絶かわいい。地球上で一番───いや、全宇宙で一番かわいい。


 そうだ。

 俺には妹がさえいればそれでいい。

 魔王なんか知ったことか。どうでもいい。


 七罪さえいれば、他のことはどうだっていいんだ。

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