第33話 この素晴らしい妹に祝福を!




 目を覚ますと同時にいつかと同じような、金縛りに俺は遭遇していた。

 しかし、もちろんこれは金縛りなどではなく────


「めっちゃやわらかいな………」


 七罪が俺のことを抱き枕がごとくがっちりとホールドしていたのだ。

 これが天国ですか?

 すっごいいい香りがする。俺と同じシャンプーを使ってるはずなのに。ということはこの香りは七罪の髪本来の香りなのでは………?

 そして、意図せずとも手が柔らかい何かに触れてしまう。

 何か、というのはもちろん二の腕のことだ。

 それ以外何があろうか。

 ……だが、なんだこの弾力感は。



 これが、そうか。


 この掌にあるものが。












 いもうとか。












 唐突に変質者のモノマネを唐突にしたくなったので実行する。

 別にこれはモノマネだから俺が変態とかじゃないからね。そこんとこ勘違いしないでもらいたい。あくまでこれはギャグの一環として行なっているだけだから。

 くんかくんか、なでなで、ハァハァ、なでなで、もちもち、よしよし、くんかくんか。

 ……いやバカか俺は。

 変態じゃないんだからさ。何してんだよもうほんと。困ったやつだなぁ俺は。まったくこれだからシスコンは。

 シスコンでもやっていいこととやっちゃいけないことがある。

 もちろんこの行為はやっていい事だ。

 これ以上はいけない。

 このまま天国のような感触を楽しみつつ二度寝と洒落込みたいところだが、そうはいかない。

 20分近くその状況を楽しんだ後に七罪の身体を揺すった。


「おーい七罪起きろー朝だぞ」


「んむにゃ…………」


 俺の問いかけと揺すりに対して寝言のみで反応してきた。

 そして俺を抱きしめるホールドの強さが徐々に強くなり、それと同時に然るべき何かが俺に押し当てられる。

 やばい。

 これはやばい。

 何がやばいってなんかもうやばい。形容しがたいやわらかい何かがやばい。語彙力は死んだ。


「おい七罪起きろって」


「むにゃ………」


 七罪は依然として起きない。

 基本的に真面目な七罪だが寝起きに関しては人一倍ひどい。寝相も悪いし。まぁそこが可愛いんだけど。


「こうなったら……」


 俺は七罪を抱き返して、そのまま七罪ごと立ち上がった。

 こうすれば流石の七罪も起きるだろ。


「んぅ………」


 嘘だろ……おい………。

 七罪は俺に強く抱きついたまま起きない。

 木にしがみつくコアラのように、ひしと抱きついて離れない。

 こんな寝起き悪いやつ漫画とかアニメでも見ないぞ……。

 俺を抱きしめる妹の腕を振り払うのはシスコンにとっては切腹するほどの覚悟がいる。

 しかし、この状況では学校に行くことも生活することもままならない。

 なにより俺の理性が保っていられるかどうか分からない。

 し、静まれ………!俺の俺ダークシャドウよ………ッ!


 何とか決心をして腕を振りほどき、ベッドの上に七罪を下ろす。


 …………………起きねぇ。


 まさかこんな属性があったなんて。

 眠れる森の美女属性か……。フッ、悪くない。正直萌える。

 七罪は相変わらず安心しきったようなクソかわな寝顔を晒しながら寝ている。


 ………にしてもかわいいよな。

 元女神だから当然か。いやそれにしてもかわいい。

 俺が思い描くかわいい女の子そのものだ。

 そのひとつひとつの顔のパーツの形状を見るように顔に近づいた。

 言うまでもないけどちゃんと人だ。

 七罪は女神に戻りたいとかあるのだろうか。そもそも女神の姿に戻ることは出来るだろうか。

 俺がそれを想像してしまうと七罪が妹ではなくなってしまうような気がして、俺はあまり考えないようにしていた。

 でも、七罪を見ていると自然と気になってしまう。


 いつの間にか七罪と鼻と鼻が触れ合うくらいの近さに俺の顔は移動していて、そんな時にこそマーフィーの法則のようにアクシデントは起きてしまうもので。


 七罪がぱちくりと目を開けた。


「お、おはよう、七罪」


 俺は七罪から顔を離して何も無かったように平然と振る舞う。


「………お、おはようございます」


「土曜だけど今日午前だけ学校あるからさ」


「それは、まぁ昨日聞いたので知ってます。……それでお兄さん、何やってたんです?」


「………えっと、何って?」


「もしかして、私にキスしようとしてました?」


「は、はぁ? べ、別にそんなことしようとしてないんだからねっ! 勘違いしないでよね!」


「誰得のツンデレですか…」


 七罪は俺にツッコミを入れたあとにすぐさま言葉を紡いだ。


「お兄さん、私のこと好きにしていいですからね」


「ぶふぅっ!」


 唐突な強烈な発言に思わず吹き出してしまう。


「〈神技スキル〉の乱用以外は何してもいいですから」


「あのなぁ、七罪。前も言ったけどもう少し身体を大切にしろって───」


「こんなことお兄さんにしか言いませんし。……お兄さん次第ですよ」


 くそ……なにも言い返せない…………。

 次回『ベルフェゴール、妹を襲う!』デュエルスタンバイ!とかなっちゃう可能性が常に付き纏ってるわけだ。

 ちょっと興奮してテンションおかしくなってるな、俺。いいか、妹を前にして興奮しないシスコンはいない。これは不可抗力だ。

 生理現象に基づいた判断と思考。

 その結果が今のテンションの原因である。


 妹側からオーケーが出てるのに、それをしないのは逆に兄として失格なのではないだろうか。

 ……いや、そんなことはない。いくらシスコンの俺とて、それくらいは弁えている。


 そう、まだその時じゃない。


 俺はなんとか自制してその時まで待つしかない。

 その時がいつかって?

 それは、まぁ…………その時だよ。

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