第17話 だから俺は、妹ができない。
「そんなに猫関連の部活が多いのか。猫好きが多いのかこの学校は……。私も好きな方ではあるが」
「因みにここに犬派っているか?」
俺は素朴な質問を投げかけた。
誰も手を挙げない。
「……これは、猫ちゃん部があっても仕方ないな」
「馬鹿にしてないですか、それ」
「いやいやいや全くしてないから。ただ七罪が可愛いだけだから」
「やっぱり馬鹿にしてますよね」
「してないわよ。七罪ちゃん、そのままのかわいいあなたでいて」
「は、はい。って返事しちゃったけど意味わかんないですから」
その後も俺らは部活動名を挙げては同名の部活があることで却下され続けた。
下に挙げるのはその一部を抜粋したものである。
「ゲーム部はどうだ?」
「あるみたいだな」
「漫画部は?」
「あるみたいです」
「セパタクロー部はどうですか?」
「あるみたいね」
「あるの!?」
「大罪部は?」
「なんだその部活は……」
「あるみたいね」
「あるんですか!?犯罪者集団なんですかそれ!?」
「無部はどうだ?」
「あるようです」
「なんでもありじゃねぇか!勉強部を先に作れ!」
「4分33秒部は?」
「あるみたいだな」
「気持ち悪っ!ずっと無音聞いてる部活なの!?」
「ミニマル部は?」
「あるな」
「でしょうね!」
「終焉部はどうだ?」
「ないみたいね」
「だろうね!そんなのあったら終わりだよ!」
「じゃあ終焉部で多数け──」
「一対三で負けるから多数決も意味無いぞ」
「…………しょぼん」
「あーよしよし永淵先輩は悪くないですよー」
………まぁ、こんな感じで一向に部活動名が決まることは無かった。
ボランティア部とか無難なものは絶対に被るし、ゲーム部とか漫画部とか本当にやりたいやつも被ってしまう。
俺達はもうアイディアを出すことも出来なくなって机に突っ伏していた。
灰咲は本を読み始めていた。あんだけ勉強が好きとか言ってた割に勉強を始めたりはしないのか。
まぁこういう頭のいい人って地頭もいいからこんな時に勉強始めたりとかはしないよな普通。
俺と七罪とノアはスマホをいじりながらしりとりをしていた。実に頭が悪そうだ。
灰咲は誘っても「私は遠慮しておくわ」と断られてしまった。
しりとりでスタンド縛りをノアと一緒に勝手にやって俺のスタンド知識が底を尽きた時、教室の扉が
俺は少し驚いて咄嗟にスマホを机の中に入れた。
「おうお前ら何の部活にするか決めたか?」
現れたのは
時計を見ると時計の針は午後五時半ちょうどを指していた。教室は西日に照らされて橙に染められている。もうこんな時間かあっという間だったな。
「……すみません、まだ決まってないです」
俺は留萌先生に正直に言った。
「だろうな」
「……へ?」
留萌先生は怒るでもなく、あたかも当然だとでも言うように言葉を続けた。
「正直お前達にはこれっぽっっっちも期待していなかった。それもそのはずだ。この学校は頭がおかしいから部活が数多とある。それと被らないようにちゃんとした部活を考えるのは不可能に近い」
「……だったらどうしてこんなことをやらしたんですか?」
「初めに言っただろ? 今の社会に求められてるのは『コミュニケーション能力』だって。この何時間かでお前らはお互い沢山意見を言い合って否定し合って肯定し合って、そんな有意義な時間を過ごせたんじゃないか?」
「た、確かに……」
言われてみればこの部活動の内容または名前を決めるという題目で始まった話し合いは誰もがそれに参加して意見を言い合っていた。
最後は暇だったからしりとりしてたけど……。
「そうだろう。灰咲もここに初めて来た時よりはいい顔になってるじゃねぇか」
俺は灰咲の顔を見るが以前と変わらない無表情をしていた。
でもどこか変化があるような、ないような。
そして俺と目が合った時の灰咲はもはや一人の殺し屋だった。
怖い。マジで怖い。
「今日はここで解散するが、明日もまた放課後来いよ。部活動名が決まるまで……そうだななんて呼ぶか。『部活動の名前を決める部』、とかか?」
「少し長いし取っつきにくいですね」
「………『
この名前は話し合いの中で出した案だ。だけど部活動内容が何をするのか全く分からないために保留となった。
「おおいいなそれ。採用だ。案外七宮も使える頭持ってんだな」
「それ褒めてます?」
「んじゃ(仮)部のみんな、気をつけて帰れよ。鍵は七宮に託してるから頼むな」
そう言って留萌先生は教室を出ていった。せっかちな人なんだな、あの人。
そこで突然、七罪が制服のブレザーを脱いで机に置いた。
「もしかしてここに私物置く気か?」
「そうですよ。今まで服とか着てなかったんでちょっと重くって……。いや変な意味じゃないですよ!」
おそらく女神の時の話だろう。女神の時に身にまとっていたあの半透明なヴェールみたいなの服じゃないのか。七罪は次々とバッグから私物を出しておいていく。
「お兄さんが鍵持ってるなら安心ですよね」
「まぁな」
それに俺が能力でいつでも七罪の私物を新たに作ることも出来る。ここに私物を置くことには何もデメリットはないだろう。
「じゃあ私も漫画置いておくか」
そう言ってノアのスクールバッグから単行本が次々と出てきた。単行本は積まれていき、山のように形成されていく。
「どんだけ入ってんだよ四次元ポケットか!」
「………? てんとう虫コミックスは持ってきてないが」
「そういう意味じゃねぇよ。ったく教科書とかノート持って帰らないのか?」
「馬鹿にするな。ちゃんと入ってるぞ」
バッグの隅に申し訳程度の教科書とノートが詰まっていた。
うん、まぁこいつは成績悪くないから別に心配する必要は無いか。
「じゃあ、私はもう帰るわ。さよなら七罪ちゃん、永淵さん」
「はい、お気を付けて」「また会おう」「またな」
灰咲はスクールバッグを持って教室から出ていく。
………あれ俺の名前呼ばれてなくね?まぁいいか。たまたまだろう。
「私ももうバスの時間が近いようだ。では
「おう、またな」「先輩また明日」
ノアは金髪を揺らして教室からダッシュで駆けて行った。......バス大丈夫なのか?
「じゃあ俺らも行くか」
「そうですね」
七罪と共に教室から出る。
既に軽音部や吹奏楽部の練習する楽器の音や体育会系の掛け声も聞こえない。
校舎は静寂に充ちていた。
照明もまばらで夕日のみが光源となって学校内を照らしている。
俺はしっかりと鍵をかけて教室を後にした。
廊下を七罪と肩を並べて歩く。
「なんか行く前は嫌だったけどなんだかんだ楽しかったな」
「でしょ?人生案外そんなもんですよ」
「女神が言うと言葉の重みが違うな」
「ふふっ」
「………」
「………」
何だかもう話すことが無くなってしまって、気まずい雰囲気になってしまう。
なにこの空気。今までこんなのあったか?
「………なぁ、七罪……」
「何ですか?」
「手、繋いでいいか……?」
「カップルか!」
「キスして、いいか……?」
「だからカップルですか!私たちは兄妹ですよね、それを強いたのはあなたですよ!」
「キスしたのか、俺以外の奴と……」
「言いたいだけじゃないですか!」
昇降口まで辿り着いたところで俺は大変なことに気がついてしまった。
「やべ……」
「どうしたんです?」
「あの教室にスマホ置いてきちゃったわ」
「あら。戻りますか?」
「すぐ来るからここで待っててくれ!すまん!」
俺は走ってさっきの教室まで向かった。
スマホは高校生にとって……いや、人間にとって生活必需品だからな。
手元に無いと非常に困る。
濃野の安否もほんの、ほんの少しだけ気になるしな。
俺は空き教室の前に辿り着き、鍵をゆっくりと開けて中に入る。
なんだか誰もいない校舎の誰もいない教室って少しわくわくするな。
………って。
「「…………っ!?!?!?!?」」
その光景を目にした時の俺の頭の中は「!?」で埋め尽くされていた。
女神が目の前に現れたその時よりも、七罪が俺のベッドで寝ていたその時よりも遥かに驚くような光景が目の前に広がっていた。
薄暗い教室を見渡すと中にさっき帰ったはずの黒髪ロングの深窓の令嬢、
俺と目が合い、お互いの顔面は蒼白に染まる。
何故って、灰咲凪咲、
彼女は、
上裸で、
頭にパンツを被っていたからだ。
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