第15話 Re:イチから始める学校生活
目的地に辿り着くと、
「おー深淵の監視者も呼ばれたのか?」
「誰が薪の王だ。いやカッコイイから別にいいが」
ノアは金髪碧眼の人形のような見た目をしているわりに日本のサブカルチャーに特化した女の子で俺の濃野以外での唯一の友人だ。
「ということはベルフェゴールも留萌先生に呼ばれた口か」
「残念ながらそういうわけだ」
「永淵先輩こんにちは」
「おお、お前はナツミとかいうベルフェゴールのホログラムシスター」
「いや本物だからな!」
ノアは未だに七罪の存在が信じられないらしい。
「ってことは噂に聞いたレンタルシスターってやつか」
「なんだそれちょっと気になる」
「お兄さん!?」
「冗談だって。俺の妹はお前だけだ」
俺は威厳として言い放つ。
「あんまり冗談に聞こえなかったんですけど……」
「まぁ気にすんな。えっと、とりあえず中入るか」
俺は鍵をポケットから取り出して、がちゃりと鍵を開ける。
「やはりお前が怠惰の鍵の持ち主だったか………」
「くっくっく。……そう、俺こそがこの〈
俺は勢いよく扉を開けて中に入る。
「……〈
七罪がノアに問う。
「ああ、怠惰の使徒であるベルフェゴールが授業をサボる時に使用する部屋のことだな」
「意外とそのまんまだった!」
いつもと変わらない教室。
教室の中央には俺が腰をかけるための机や椅子が不規則に置かれていた。
「まぁ自分ちだと思って適当にくつろいでくれ」
「何お兄さんの家みたいに言ってるんですか!」
「〈
「そういう事だ」
「どういうことですか!?」
俺たち三人は机を寄せあって、椅子に腰掛けた。
忘れないうちに濃野に連絡入れとくか。
『明日サボったらお前の机に妹モノのフィギュア置くぞ六華ちゃんを心配させやがって』
これでよし。
こんなことを言われたら休む訳にはいかないだろう。
しかし濃野のやつ、二年になってからサボるのが多くなったというか。多いといっても今日で二回目なんだけど。
あいつは一年の時は皆勤賞だったから尚更不自然だ。
俺は全く心配はしてないが、六華ちゃんを心配させたのは万死に値すると思う。
「というか今呼ばれてるのお二人だけなんですね」
「確かにな。もっと大勢が呼ばれてると思ったけど、ノアだけで良かったよ」
「私も少し心細かったからな。ベルフェゴールが来てくれて良かった」
「そ、そうか」
そんな直球で言われるとなんか恥ずいな。
しかもノア凄い笑顔だし。
守りたい、この笑顔。
「俺達の共通点ってなんだろうな」
「問題児とかじゃないですか?」
「直球だな! 俺はともかくノアはそうでも……ないよな?」
「何ではっきり言わないんだ……。私は特に問題は起こしてないはずだが……そうなると共通点は……」
「……消去法でいけば魂の盟友、ということか」
「ほんとに消去法使いました!? もっとなんかありますよね!?」
「なるほど。私たちがまとまった所を潰さんとする〈
「なんだそれカッコイイな」
「お兄さんの知らない設定だった!」
「ふふん。私が今即興で考えたにしてはまぁまぁな出来といったところだな」
「即興なのかよ!いやぁノアには適わないな」
「もっと褒めていいぞ」
「ノアすごーいかわいー!」
「永淵先輩かっこいい!かわいい!」
ノアは腕を組んでこれでもかってくらい嬉しそうな表情をしている。
こいつに関しては甘やかすくらいが丁度いいんだよな。
ノアを褒め殺す会が佳境にも迫ったところで教室の扉が開かれた。
「悪い悪い、待たせたな。いやこいつが全然見つからなくって」
留萌先生の後ろから出てきたのは清楚な感じの黒髪ロングで深窓の令嬢のような女の子だった。
無表情を一貫していて、とてもじゃないけど話しかける気にはなれない。
まさに高嶺の花みたいな感じで、俺がシスコンじゃなけりゃ惚れてるレベルの美人だ。
もちろん俺は七罪一筋なので惚れるようなことは絶対ありえないが。
「私忙しいので早く帰りたいんですが」
黒髪の少女がこちらを見た瞬間に少しだけ顔色が変わったことに俺は気が付いた。
「まぁまぁそう言うなって。忙しいって言っても家で勉強するくらいだろ?………ってあれ?七宮妹も来てたのか」
「はい、兄の付き添いです」
「そうか、ちょうど良かった。もう一人くらい欲しかったんだけどいい奴が見つかんなくってさ」
いい奴……?
なんのことだろうか。
この様子じゃ説教をするために呼んだわけではなさそうだ。
「
灰咲と呼ばれた黒髪ロングの少女は俺たちとはかなり離れた机に座った。
おそらくパーソナリティスペースが極端に広い子なのだろう。わかるわかる。
俺もその気持ちはすごいわかる。
他人の近くってだけでなんかいやだよな。
「いやそんな遠くじゃなくてな……。まぁいいか」
留萌先生はどこか戸惑ったような様子を見せて教卓に腰掛けた。おい、教師がいいのかそれ。
「永淵、なんでお前らが集められたか分かるか?」
「〈
「いやちげぇよ! なんだその怪しそうな集団は!」
「ち、違うのか」
「なんで意外そうなんだ! 七宮も驚きで目を見開くな! 馬鹿ばっかか!」
「そうみたいですね」
「おお、七宮妹が真面目そうで助かった。お前ら全員の共通点、それはな」
留萌先生が一瞬だけ目を瞑り、言い放った。
「お前らは全員何の部活にも所属していない、という事だ」
「俺帰りますね」
「ちょいちょいちょい
「それ教師が一番言っちゃいけないセリフ!」
立ち上がった俺の首根っこを留萌先生が引っ張る。
ぐ、ぐるじい………。
「ごほっ………ごほっ……どうせ『お前らがどっかの部活に入るとか決めない限りここから出さないぞふははははは』とか言うつもりなんでしょう」
「んな笑い方してねぇだろ! 違う違うお前ら四人で部活を作ってもらいたいんだ」
「部活を作る……だと……?」
ノアがどこぞの死神さんみたいな表情を作って言った。
「そうだ。七宮妹を除いたお前らみたいな社会不適合者はどこかの部活に入ってもすぐにやめちまうだろ?」
「禁句言っちゃったよ!」
「……社会不適合者じゃないもん………………違うもん………ぐすっ……」
「ほらぁー! ノアが泣きそうになってますよ先生! 違うぞノア、お前は選ばれし民だぞ〜」
「褒め方!永淵先輩よしよし大丈夫ですよ〜」
七罪がノアの頭をまるで女神のように撫でる。……母性ある妹もいいな。
「だからお前らだけで部活を作って所属して欲しいんだ。どんな部活でもいい。お前らが好きに決めてくれ」
「そもそもなんで俺らが部活なんぞに入らなきゃいけないんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。ここ
灰咲は依然として無表情のまま答えた。
「……おそらく、人間はコミュニティの中で生活することを強いられているため、早いうちからあるコミュニティ内でその力を養うべきだという考えに基づいてその校則が作られたんだと思います」
「……………………………………………正解だ」
「なんで溜めたんですか!」
「言いたいことほぼ全部言われたんでちょっと驚いてる」
「振る相手間違えたんじゃないですかね……ひいいぃっ」
何故俺がこんな奇声をあげたかと言うと、灰咲の目線が俺を捉えていたからだ。
その綺麗な表情が一周まわって恐ろしく、その眼光は暗殺者のようだった。
「どうしたベルフェゴール!〈
「そうかもしれない……」
「大丈夫ですかお兄さん」
七罪が顔を極限まで近付けてきた。近い近いかわいい。くっそかわいい。
「なんでもないって。ごめん大丈夫」
灰咲は相も変わらず俺の事を両親の仇みたいな目で睨みつけていた。
それどころかさっきより殺気が溢れているようだ。………なに俺何かやっちゃったの?
「七宮の奇行は放っておいて話を続けるぞ。今の時代に求められるものはズバリ『コミュニケーション能力』だ。それを培うためにお前らは放課後ここで集まって何かしらをやって欲しい」
「何かしらってえらく抽象的ですね」
「さっき言ったろ。どんな部活にするのも自由だってな。お前らが部活を作るのはもう決定事項だ。今日はどんな部活にするか、を決めてもらおうと思う。じゃあ邪魔者はここらで退散して、と」
「なんでお見合いの時のお母さんみたいに言うんですか……」
「ほいこれ、部活とか同好会の一覧。名前被ったり内容被ったら駄目だかんな」
「んじゃ、隣の教室いるから何かあったら呼んでくれ。17時半くらいには部活名まで決めろよ〜」
がしゃりと扉が閉められて教室に俺たちだけが取り残される。
俺はノアと七罪とはかなり話せる方だが、灰咲さんとは全くと言って話したことが無い。
少し不安要素はあるけど、妹と一緒ならば何も心配入らないはず……だよな?
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