第14話 妹穴に入らずんば妹子を得ず


 帰りのホームルームが終わった瞬間に俺は席を立った。

 昼休みのことがあってからみんなの視線が死ぬほど痛い。

 シスコンが悪いことなのかよ。妹が好きなだけじゃないか。大罪みたいに言いやがって。

 俺は仲がいいヤツとしか会話出来ない体質なので妹が欲しいと学校で話していた相手は濃野とノアだけだった。


 シスコンと呼ばれるのは一向に構わない、むしろ呼んでくれって感じだが、学校生活に支障をきたすなら話は別。シスコンにもシスコンのプライドってやつがあるわけだ。


「はぁ………」


 俺は誰にも聞かれないように小さく溜息を吐いて教室を出た。

 七罪の教室に行こうと廊下を歩いていると、


「七宮ぁ〜ちょっと待ってくれ」


 俺の名を呼んだのは生活指導の留萌るもい先生だった。

 童顔で俺と同じくらいの身長。制服を着ていたら同級生と間違えてしまう自信すらある。

 俺はよく学校を無断で遅刻したり早退してたのでこの先生とよく面識があった。


「お前いま暇か?」


「いや忙しいっすそれじゃ」


「お前が暇なことはこちとら知ってんだよあ゛ぁ!?」


 そう言って俺の頭を片手で鷲掴みにする。

 こ、こえぇぇ………。本当に教職持った先生なのかこの人。ヤーさんなのでは………?

 俺は留萌先生に向き直る。


「す、すみません、ほんの冗談です」


「お前、冗談言うのか。……なんか変わったな……。前は『話しかけてくる奴、全員殺すぞボケカスあ゛ぁん!?』って顔してたぞ」


「いやどんな顔ですか!」


「まぁ何か心変わりがあったのはちょうど良かった。お前さ、旧校舎の文化部棟で部屋パクってんだろ」


「ぎくっ」


「口でぎくって言うやつ初めて見たわ」


 あれバレてたのか。まぁ学校管理してる側からしたら当たり前か。


「んで今からそこ行って待っててくれ。私は他のやつ呼んでくるから」


「分かりました」


 留萌先生は俺に背を向けて離れて行った。

 『他のやつ』か。つまり俺のテリトリーであるあの空き教室で何か生徒を集めてする、ということ。

 ふむふむ………。俺は顎に手を当てて考えるポーズを一応とってみたが───

 帰ろ。


 面倒臭いし。


 心の中に存在する面倒くさそうレーダーがびんびんに反応したので帰ることにした。

 俺は七罪のいる教室に向かって歩く。

 こんなどうでもいいイベントに付き合ってやれるほど俺は暇じゃない。

 七罪とのひと時を一分一秒だって無駄には出来ないんだ。

 一年生の教室の扉を開けて名前を呼ぶ。


「七罪〜」


「あっお兄さん」


「えっ、あれ七罪ちゃんのお兄さん?」「うっそかっこよくない?」「七罪と似てないけど、美男美女ってとこは似てる〜〜」「綺麗な子の兄はイケメンってホントだったんだ」「俺一目惚れしたかも………」


 だから最後に変なの持ってくるのやめろ!何なんだその流れは!

 まぁ褒められて嬉しくないわけがないが妹以外の人間にはまるで興味がない………訳ではなく年下にはめっぽう弱い俺なのであった。思わず頬が少し緩んでしまう。

  その教室の中で濃野の妹の六華りっかちゃんを見つける。七罪と話しているようだ。

 俺は教室に入り二人の元に向かう。


「七罪、帰ろうぜ」


「もちろん」


「六華ちゃんまたね」


「は、はい、また……あっえと、ベル先輩、ちょっといいですか?」


「う、うん。何?」


 六華ちゃんが俺の袖を掴む。

 相変わらず庇護欲をそそるような容姿してるなこの子。


「あの、今日兄のこと見ませんでした?」


「いや見てないけど」


「ですよね...」


 六華ちゃんは肩をがくりと落とした。


「えっと、あいつになんかあったの?」


「いえ、昨日は家に帰ってて朝も見かけたんですけど。私は朝練があったので朝一緒じゃなくって、それでそれで何故か学校に来てないみたいなので」


「なるほど、だいたい分かった。でもあいつは学校無断でサボるようなやつじゃないしな」


「そうなんですけど、連絡しても返事がなくって...」


「大丈夫だよ六華ちゃん」


 俺は六華ちゃんの頭を撫でる。

 その瞬間教室で黄色い歓声が静かに沸き起こるが、それを無視して俺は頭を撫でた。

 すると六華ちゃんの身体がびくりと跳ね上がり、頬が紅潮するのが見て分かった。


「あいつは六華ちゃんを心配させることは絶対にしない。家帰ったらサプライズみたいに出てくるに決まってるさ」


「ベル先輩……」


「俺もあいつ探しとくからさ、とりあえず心配しなくても大丈夫」


「わ、わかりました。なんか先輩の言葉聞いたら大丈夫な気がしてきました」


「良かった。じゃあ、部活頑張ってな」


「はい、ありがとうございます!」


「六華ちゃんバイバイ」


「うん!七罪ちゃんまたね!」


 俺は七罪と共に教室を出た。

 七罪は上目遣いでこっちを見て言う。


「なんかお兄さん気持ち悪かったです」


「なんで!?」


「今にでも六華ちゃんを喰ってやろうって顔してました」


「いやだからどんな顔!?」


「こんな顔です」


 そう言って七罪は大きく口を開けて、つま先立ちになる。

 そして俺の肩を掴み俺の頭をかじろうとした。さらに小声で「がうーっ」と言う。


 なんだこの生き物。かわいい。


「……なんですかその顔は」


「『なんだこの生き物はかわいい可愛すぎるよ〜〜!!はむはむしたいよ〜〜!!』って顔だ」


「気持ち悪っ!」


「おっ、今のホンモノの妹っぽい。妹の腕上げてんな〜。録音するからもっかい頼む」


「気持ちわっ………思わず言いそうになっちゃいました」


「……ちっ」


 七罪と俺は昇降口まで肩を並べて歩いているとさっきの話を思い出した。留萌るもい先生に呼ばれた話だ。


「そう言えばさっき留萌先生に会ってさ」


「ああ、生活指導の」


「招集されたんだけど面倒臭いから帰ることにした」


「なるほど、帰ることにしたと…………ってバカですか!?それ無視したら後々すっごい面倒くさくなりますよ!」


「いや分かってるけどさ。お前との時間を無駄にしたくなくて」


「へ、変なこと言ってないで行きますよほら」


「いやだいやだ、く〇ん行きたくないもん!」


「つまらなっ! 今日一でつまらないギャグ言わないでくださいよ! ほら私も一緒に行きますから」


「じゃあ、行こうか」


「急にキメ顔しないでくださいよ……」


 俺は七罪の手を引いて俺が領土テリトリーとしてる旧校舎文化部棟の空き教室へと向かった。


 なんか七罪の前だと舞い上がってテンションおかしくなってるな。うん、少し自重しよう。

 妹が出来たことが嬉しすぎるんだよなぁ、ほんと。


 よく考えたら、そもそも俺が鍵持ってるから俺がいなくちゃ話にならないしな。

 もしサボったら明日留萌るもい先生に殺される、そんな思いと右手に握る妹の手の温かさに後押しされ俺は歩を進めた。

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