第11話 お兄さんのことなんかぜんぜん好きじゃないんですからねっ!!
「って何流れるように一緒にトイレ入ってるんですか!?」
「や、これは違くて」
「あっ、あのっ、ちょっと耳、塞いで!」
「ご、ごめん」
俺はテンパってキョドりつつも耳を塞いで後ろを向いた。
しかしそのセレナーデのイントロというか序幕というかプロローグというか、それを聞くつもりじゃなかったんだけど、耳をしっかり塞ぐのが遅すぎてはっきりと聞いてしまった。
背後で妹がトイレをしているという状況にどこか背徳感を感じてしまう。なんで俺、妹と一緒にトイレ入ってるんだろうという後悔に一瞬だけ苛まれた。
すると、背中をちょんちょんと指で叩かれ、それに応じて耳を塞ぐ手を下ろし、後ろを振り向く。
七罪と目が合う。小さい身体の七罪の姿には未だ慣れない。
「女神と一緒にトイレに入るなんて前代未聞です」
「ごめんって」
「ま、そんなに気にしてないですけど」
「いや気にしてないのかよ」
「さ、早く戻りましょう」
自室にに戻る際は難なく帰ることが出来た。ラス兄は居間に居ないのを見るに自室に戻ったようだ。
「なんとかミッションクリアだな」
「トイレに行くのも一苦労ですね」
「マジでごめん。俺のわがままで苦労負わせて」
「だから謝んなくていいですって。私もなんか楽しくなってきましたし、ハイドアンドシーク的な」
「それなら、いいけどな。……えと姿戻した方がいいか?」
「ああ、そうしてもらっていいですか。ちっちゃいと不自由なことが多くって」
俺は七罪が言い終わると同時に七罪を初めてあった時と同じパジャマ姿に変えた。身長ももちろん大きくなる。妹はどんな姿でも可愛いと再確認することが出来た。
「可愛いぞ七罪!めっちゃ可愛い!」
「はいはい」
そう言って七罪は俺のベッドに横になってスマホをいじり始めた。
まるで女子高生みたいだ。まぁ本当に女子高生なんだけど。
因みにあのスマホも俺の能力で創り出したものだ。これを使ったらとんでもなくお金稼ぎ出来るんじゃないか?と考えたところで思考するのはやめた。女神の妹がそれを許すわけがない。嫌われたら嫌だしな。
俺はデスクチェアに座ってスマホをポケットから取り出した。
改めて考えると異様な光景だ。ちょっと前まではこんなにスマホが普及するなんて思ってもいなかった。
みんな小さな四角い箱と睨めっこして、一喜一憂して笑って泣いて、みたいな?なんか客観的に見たらおかしいよな、うん。
話始めてなんだが、俺は別に現代社会について特に語りたいわけではない。
ただ今や誰もがこれを持つことが当たり前になっていて、そんなふうに当たり前じゃないものが当たり前が変わっていくことが、俺に妹が出来たことと何処か似てる気がしてそう思わざるを得なかった。
まぁ、妹がいれば俺は何も考える必要は無い。
特に悩むことなんてもう何も、ないんだ。
◇◇◇
夕食に俺と七罪は〈
にしてもこの能力便利過ぎないか?手で掴めるレベルのものならなんでも作ることが出来るなんて。皿とフォークをキッチンに置いてから俺は部屋に戻った。
七罪はすっかり俺のベッドを定位置にしているらしい。
俺は妹の寝そべるベッドに腰掛けてスマホを取り出した。
そして俺はスマホを横持ちにしてあるアプリを開いた。
《ネフィリム・グラウンド》略してリムグラというゲームだ。
アプリゲームのセールスランク100位にも入っていないようなゲームだが俺は好んでプレイしている。
ゲームシステムはありきたりなものでタップしてスキルを使ったりしてクエストをこなしてストーリーを進めていくみたいなゲームだ。
大して評価されてないこのゲームを何故俺がプレイしているか、それには大きく分けて三つの理由がある。
まず一つに『単純にストーリーが面白い』という理由。
このゲームのことを調べるとストーリーの各所がネタにされていたりしているのを見るが俺がプレイしている中では特に気になる点はなかったので初めてネットでストーリーを馬鹿にされてるのを見てかなり驚いたのを覚えている。
俺の感性がおかしいのか分からないけど、何か面白いんだよな。王道じゃなかったり、ギャグとシリアスが入りまじってるところとか。
あとストーリーが七つの大罪モチーフなのも何か俺の名前と縁があって気に入ってプレイしている。
怠惰なキャラのベルフェちゃんがお気に入り。
そして二つ目に『あまり有名なゲームではない』ということ。
俺は自他ともに認める捻くれ者なので、基本的に大衆で流行っているものはあまり触れたくない。
クラスの男子の9割がスマホに入れているようなアプリゲーをプレイしたくないのだ。
決してその輪に入れないからやってない訳じゃないからな。
そう、誰にも知られてないような面白いゲーム知ってる俺かっけー、みたいな感じだ。痛々しいと言われようが俺の信念は折れない。
そして三つ目の理由は『ゲーム内に仲のいいフレンドがいる』こと。
〈necojiru〉さんという方でこのゲームがリリースされた当初から仲良くさせてもらってる。
仲がいいと言っても特にチャットとかはしないのだが、お互いどっちかが救助依頼したら助けてくれるって感じでゆるい繋がりがあるってだけだ。
でもそれだけでほっこりしたりゲームのモチベに繋がったりしてなんだかんだ絆を感じてる。
今もまさにその人にクエストを手伝って貰って一緒にクリアしたところだ。
プレイヤーレベルが常に俺より10くらい高く、いつも助けても貰っている立場だからなんかプレゼント送っとくか。
このゲームの機能でフレンドにあまりレア度の高くないアイテムを送れる機能がある。
それを使って〈necojiru〉さんに送れるアイテムの中で需要の高いアイテムを送る。
すると、送ってから一分ほどあとに『ありがとう!』というスタンプがゲーム内のチャットで送られてきた。
俺は思わずにやけてしまう。
友達との交流とかが特にない俺からしたらこういう何気ない人との繋がりが嬉しかったりする。
「何にやけてるんですー?」
「いやなんでもないよ。まぁ強いていえば七罪可愛いなーって」
「ああ、そうですか」
七罪は俺の愛の文言をスルーしてもう一度スマホに目を落とした。
「てか七罪スマホで何やってんの?女神がスマホ持ってなにするのか単純に気になる」
「あー、えっとクラスの人と返信したり、猫ちゃんの画像見たりですかね」
「あー、猫ね。ちなみにクラスの人って?」
「はー?別に言わなくても良くないですか?お兄さんには関係ないでしょ」
「え、なんかそれ凄い妹っぽい。もっと言ってもっと言って」
「無敵ですか。いや言わないってのは冗談ですよ、普通に今日できたクラスのお友達です」
「もう友達出来たのか七罪……。強いな」
「私はお兄さんと違ってちゃんとお喋り出来ますからね。ふふん」
七罪が自慢げに胸を張った。可愛い。
「くそ……悔しいけどその通りだから反論できない……けど俺には妹がいるからなもう何もかも要らない」
「順調にだめになってますね。まぁ、あなたが幸せならそれでいいですけど」
「ああ、今俺は最高に幸せだ。お前が来てくれなかったら本当に死んでたよ」
「感謝してくださいよ〜。そして信仰してください」
「いやもうほんと女神様七罪様妹様、愛してます尊敬してますははーっ」
「馬鹿にしてません?それ」
そしてもう一度二人の間に静寂が生まれ、お互いスマホをいじりだす。
そんな時だった。突然、七罪は身体を起こして俺の肩をポンポンと叩いた。
「お兄さん」
「どうした?おしっこか?」
「それに味を占めないで下さいよ。じゃなくって、えっとお風呂に入りたいです、私」
「風呂、か。トイレに行くより大変だなそれは。どうしたものか」
「やだやだやだやだ〜。一日最低一回はお風呂に入りたい〜」
「妹がそういうんなら、頑張ってみるか」
「やった」
「じゃあ、早速行くか」
「えっ、策とかないんですか?」
「そんなものはない。バレなきゃバレないからな」
「なんですかその力こそパワーみたいな」
「とにかく行くぞ」
俺は七罪の手を引いて、部屋を出た。
サタ兄は音からして自室にいるだろう。アヴァリティアやラストはどこにいるのかは分からないが途中で鉢合わせみたいなことは起きないだろう。バスルームはトイレのある扉の反対側にある。
七罪の手を掴んだまま下に降りてバスルームに向かう。
まぁ、行くこと自体は余裕だった。辿り着くことは出来た。
問題はここからだ。特に問題って言えるほど大袈裟なことじゃないけどさ。
「じゃあ怪しまれないように俺ここで見張ってるから風呂ゆっくり入っててくれ」
七罪は上目遣いで俺の袖を掴んでから、ゆっくりと口を開いて、囁いた。
「……お兄さん、一緒に入りませんか?」
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