第2話 さようなら人生、こんにちは妹生
妹………?
いやいやいや、何言ってんだよ俺。
俺には妹なんていない。そう、俺が死のうとした一番の理由がそれだ。妹がいない、それが俺にどれだけの絶望を与えたか。
俺の家族構成を聞いて驚かないやつはいない。
七人兄弟。全員男。
ちなみに俺は四男だ。
二分の一を七回外すってどんな確率だよ。
もう天文学的数字なんじゃないか? いや、そこまでではないか。でもこんなことフィクションでもそんなにないだろ。
親も七人目が男だったと判明した時はしばらくの間立ち直れなかったという。
前世でどんなことしたら、こんなことになるんだよ。くそ。くそ。
そう、俺には妹がいない。
いないのに、その姿を一目見た時、俺の頭はそれを妹だと認識した。一体どういうことなんだ。
俺のベッドに横たわる一人の女の子。
顔を向こう側に向けているためにその表情を伺うことは出来ない。
身長は横になっているから確かではないが、俺より10センチ小さいくらいだろうか。
その女の子は淡い水色のパーカーにその裾から僅かに覗かせる白のハーフパンツ、それしか身にまとっていなかった。
端的に説明するなら、突然俺のベッドに現れた寝巻きの少女。そんなところだ。
「…………ハッ」
俺は思わず失笑する。
どうせこれも幻覚だ。妹を心から欲する俺の心が生み出した幻覚なんだ。
イマジナリーシスターなんだ。
正直、こんなのいつもの事だ。幻覚を見たのは初めてだが、俺はいつも妹がいる妄想をする。
夢にはいつも自分の思い描いた妹が出てくる。イマジナリーシスターが現れても仕方がない。それくらい精神が参ってるんだからな。
天井から伸びる縄を払い除けて、そのベッドに歩み寄る。
……っていや、いくらなんでもこの幻覚リアル過ぎる。自分の目を疑い、何度も目を擦るが、一向にその幻覚が消える気配がない。
近付くと分かったが、その少女はすーっ、すーっ、寝息をたてて完全に眠っていた。俺は無意識のうちに少女の肩に手を伸ばす。
………触れられた。
幻覚じゃ、ないのか? だとしたら、この子は誰だ? どうして突然俺の部屋に現れたんだ。
不法侵入者?
……もしかして、カス兄の彼女さんとかか?
そうか、そういうことか。それなら納得だ。
カス兄は今夜帰ってこなかったから恐らくまた彼女さんの家に泊まっているのだろう。
その彼女さんとは別の子が家に来てしまい、間違って俺のベッドで眠ってしまったんだ。そうに違いない。それ以外に現実的な解答は存在しない。俺は肩に触れた手を引っ込めた。
カス兄はほんとカスでクソだ。
人間のクズと言っても過言ではない。こんないたいけな子に手を出していたなんて。
さて、この子をこのまま放置するのが正解か、起こしてあげるのが正解か。このまま放置して明日の朝、起きた時にあらぬ疑いをかけられてしまいそうだ。
面倒だが、今起こすのが最善手。俺はそう考えた。
俺はその子の肩にもう一度触れて身体を揺すった。そして小声で声をかける。
「……起きてくださーい。ここ俺の部屋ですよー」
少女は起き上がった。
そして、目を奪われる。
その子は透き通るような透明感のある肌に、人間が最後に行き着く先のような、神がかっているほど端正な顔立ちをしていた。
もしこの世界に天使がいるなら、きっと彼女に違いない、そう思ってしまった。
ひと目惚れしてしまったかもしれない。胸がドクン、と高鳴る。
俺は頭を振ってそんな思いを消し飛ばした。この人はどうせクソ兄の彼女さんだ。
それに俺がこんなに可愛い子と付き合えるわけがない。
その子は左手の袖で目を擦って大きな欠伸をした。
「ふわぁ〜〜………」
そして、その口から驚くべき一言を言い放った。
「………あっ、お兄ちゃん」
「…………………あ?」
思考が数秒硬直し、それに呼応するように身体も動かなくなる。
この子今、なんて言った?
「どうしたの……? お兄ちゃん、具合悪いの?」
「ちょっ、えっ、待ってくれ、タンマ。………君はラスト兄さんの彼女さんじゃないの?」
「違うよ、お兄ちゃん。私はお兄ちゃんの妹だよ」
「………なっ」
俺の妹を名乗る少女はベッドに座り直して、
「あらためまして」
少女は小さく咳払いをしてから、上目遣いでこちらを見る。
「はじめまして、私のお兄ちゃん」
「俺が、お兄ちゃん……?」
「ふふっ。そうだよ、お兄ちゃんは私のお兄ちゃん」
妹を名乗る少女は可愛げに笑う。まったく可愛いなちくしょう。頭が全く追いつかない。
「君は、一体どこから来たんだ?」
そうじゃないだろ。俺。もっと聞かないといけないことがあるはずだ。
しかし、忘れちゃいけないのが俺がコミュ障であるということ。
自慢じゃないがファッションコミュ障じゃないぜ? ホンモノのコミュ障だ。
女の子を前にしたら俺はとことん会話が出来なくなる。
家庭内じゃ母親しか女性がいないこの現状が俺をこうさせたんだ。まぁ前は母以外もいたけどそれは遠き過去の話だ。
そう、俺は俺をコミュ障にした世界を嫌っている。
「どこから来た、っていう質問には上手く答えられないんだけど、私はお兄ちゃんの〈
「スキル...?」
あの女神が言っていたやつか。……俺の〈
「お兄ちゃんの能力は『妹を創り出すことが出来る能力』、その名も《
妹を創り出すことが出来る能力………だと………?
そして────
「ソロル………。ラテン語で妹、か」
「おお、流石お兄ちゃんっ。よく知ってるね」
「まぁな。俺は妹のことについては世界一詳しい。妹はいないけどな」
「ふふっ。お兄ちゃんにはもう、私がいるでしょ?」
血も繋がっていない。
ましてや義理の妹でもない。突如現れた得体の知れない超次元的存在。
それを妹と認めるのは、この場にはもう俺しかいない。
妹を追い求め、探求し、妹のいないシスコンとなったこの俺がこの子を妹だと認めるのか?
その問いの解答は勿論─────
「そうだな。今はもう、お前がいる」
俺はそう言って微笑みながら、
呼び方は自然と、君からお前に変化していた。俺の脳がこの女の子を完全に妹と認識したのだろう。
「お兄ちゃんに頭撫でられの好き〜」
「はははっ」
やばい。笑みが止まらない。
俺に妹が………?
くくくくっ………。そんなの、どんなパターンだって最高じゃないか!
『異能力で妹を出現させる』は俺が妹を手に入れる方法その12だ。
まさか、本当に願いが叶うなんて、ありがとう女神様。感謝してもしきれない。
死のうとしてたのが馬鹿らしくなってきた。
人生が明るく輝いていくようだ。
やっば。最高だ。なんだこれ。
「じゃあ、お兄ちゃん」
俺の妹は再びベッドに横になり、毛布を片手で持ち上げて言った。
「一緒に寝よ?」
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