第9話 本当は……



 ── 一方、こちらは楓夏のお話。


 春哉が楓夏に話しかけなくなり、数日経ったある日のこと。


「……うか、楓夏!」


 休み時間、冬空は真後ろに座る楓夏へ声をかけるも、なかなか気づいてもらえずにいた。


「……あ! ごめん、なに?」


「ずっと見てたね。……気になるの?」


 冬空は楓夏が見ていた人物に視線を移した。


 その人物は冬空達がいる窓際ではなく、廊下で他の生徒と話していた。


「え? そんなんじゃないよ!」


 楓夏は首を左右に振り、否定した。


「ほんとに?」


「……うん」


 少し間が空き、頷いた楓夏の頬はほんのり赤く染まっていた。


「最近挨拶してこなくなったね」


「……そうなの。前は私が返事しなくても……って別に待ってるわけじゃないよ!」


 思いっきり否定した楓夏の顔は悲しい顔をしていた。


「ずっと気になってたんだけど、前に言ってた幼馴染って彼?」


「……あ、えっと……」


「話したくなければ言わなくていいよ。ただ、あたしはいつでも聞くからね」


「冬空、ありがとう……。

 うん、前に言ったずっと待ってる幼馴染が……春くんだよ……」


「やっぱり、覚えてたんだ」


「……お、覚えてるよ。……忘れたことなんて、ない」


「じゃあ、なんで知らないなんて言ったの?」


「だって……。なんか、春くんかっこよくなっちゃって緊張して喋れなくて……。

 それで、つい」


「ついって……。ちゃんと話した方がいいよ。そんな子供の時の約束守ってまで迎えきてくれる人なんてそういないんだから」


「そう……だよね。どうしよう。

 私態度悪すぎて呆れられちゃったらどうしよう…」


「大丈夫大丈夫。頑張って」


「うん……ありがとう」



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