第8話 話しかけない

「楓夏! おっはよー!」


「冬空ー! おはよう」


「(話しかけない……。話しかけない。……けど、見るのはいいかな?)」


 ちらっと横目で楓夏を見てみた。


「(わっ! 目合っちゃった)」


 気づかれないように見るはずが楓夏と目が合ってしまったのだ。


 春哉はびっくりし、思わずすぐに逸らした。


「(……どうしよう。嫌な人だと思われたかな?)」



 ──それから春哉の話しかけない試練は続いた。


 隣に楓夏が来ても楓夏が帰るときも……。


 元々、挨拶以外は話しかけてなかった為、そこだけ我慢すれば春哉は楓夏と "話さない" ことが可能だ。



 ***



 話さないのが一週間続いたある日のお昼。


 ──屋上にて。


 あれから、春哉と秋翔は屋上でお昼を食べるのが日課になった。


「あーきと。僕もう辛いよー」


 屋上の入るや否や春哉は叫んだ。


「話せないのがか?」


「うん……」


「大丈夫だ! 元々話せなかったからな」


 秋翔の返答は辛口だった。


「いや……。うん、まあそうだけど。話しかけたくてもできないのが辛い。今まで返事貰えなかったけど……」


「まあ、そうだな。……けど、春哉気づいてないだろ?」


「何が?」


「結構見てるぞ」


「誰が?」


「野海が」


「え! 嘘!」


「ほんと!」


 驚きから春哉は立ち上がった。


 どうやら驚くと立ち上がる癖があるようだ。


「落ち着け。座りな」


「ごめん……。ほんとにふうちゃん、僕のこと見てるの?」


「ここ三日間くらい朝と帰りに見てたぞ」


「なんか……嬉しい」


 春哉の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「向こうから話しかけられるまでそのままな。辛いかもだけど頑張れよ!」


「うん! ありがとう!」



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