第4話 挨拶

「(なんで、ふうちゃん僕のこと覚えてないんだろ? 8年経ったから?

 約束……したのに。迎えに行くって……)」


 家に帰った春哉の頭の中は楓夏のことでいっぱいだ。


 いくら8年経ち顔立ちが変わったとしても名前を聞けばわかるはずだ。


 ──次の日。


 春哉は重い足取りで教室へ向かった。


 教室に着くと隣の席の楓夏はまだ空いたままだ。


「(よし、ふうちゃん来たら挨拶しよ……。覚えてないなら、思い出してもらいたいし! ……けど、覚えてないんじゃなくて……嫌われてたらどうしよう……」


 またしても春哉の頭は楓夏でいっぱいだ。


「春哉! おはよう!」


「……秋翔か。おはよう!」


 春哉は俯いていた顔を上げ、秋翔と確認すると笑顔を作った。


「なんか、すごい顔してたけど大丈夫か? ここすごいぞ」


 秋翔は自分の眉間を指さした。


「……え? そんなすごい顔してた?」


「ああ。すごかったよ。まあ、転校してきたばっかでわかんないことあるだろうし何かあれば言ってくれよ!」


「……あ…秋とぉー。ありがとう……」


「なんだ、なんだ。今度は泣きそうな顔して。忙しい顔だな」


 春哉は秋翔の優しさに泣きそうになりながらも頑張ろうと心に決めたのであった。


「あ、楓夏おはよー!」


「冬空……おはよう!」


 楓夏が来るなり、楓夏の前の席に座る女子生徒が声をかけた。


 楓夏は一瞬春哉を見るが視線を彼女に移した。


 彼女の名前は雪吹冬空いぶきとあ


「(よし! 行くんだ! 僕!)」


「あ……ふ、ふうちやん。お…おはよう?」


 席に着いた楓夏に挨拶すると楓夏の体がビクッと跳ねた。


 気づいているようだが返事はなかった。


 ──そして放課後。


「(バイバイって言おう!)」


「……ふうちゃん。バ…バイバイ」


 席を立つ楓夏に声をかけたがやはり返事はなかった。




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