ボクと狐ちゃんのキャンパス巡り7
うなぎの方は、蒸し器から取り出され、たれにつけてから焼く段階になっていた。すでにお重にご飯を詰めたものが二つ用意されている。
うなぎのおいしそうな匂いが店中に充満していて、わくわく感がどんどん増して「げふぅぅぅ」
……ちょっとだけ、空気を読んでほしいと思った。
「そっちの子はずいぶんとコーラを気に入ったようだな」
「やかましくてすいません」
「げふぅうぅぅ」
「クーちゃぁん」
「ははは、コーラもいいかもしれんが、うちのウナギは絶品だぞ。はい、特上うな重二丁!」
そういって店主さんが赤いお重をカウンターに置く。
「ほら、クーちゃん!! うな重だような重!!」
「え? わわ、もうできてる!! わーい!!!」
クーちゃんもお重に気付いたようで、まだ半分ぐらい残っているコーラ瓶をテーブルに置いた。
ボクとクーちゃん、二人同時にふたを開ける。湯気とともにうなぎの何とも言えないいい香りがした。
お重の中にはうなぎが一面に敷き詰められて、ご飯が見えなかった。その圧倒的なうなぎ量に期待が非常に高まる。割りばしを割り、ウナギに箸を入れると、スッとウナギに箸が刺さった。全く抵抗なく、ご飯の層まで箸が進む。すごい柔らかいうなぎだった。
そのまま、ウナギとご飯を一口分箸に取り、口に運ぶ。たれの甘さとウナギのしっかりした旨味、油の甘さが合わさって、至高の味であった。本当においしい。二口、三口と箸が止まらず、無言で食べ続ける。
あれだけあったうな重はいつの間にかすべてなくなっていた。
横を見るとクーちゃんも完食していた。
「そんなにうまそうに食ってもらえると職人冥利に尽きるな」
「えっと、ごちそうさまでした。すごくおいしかったです」
「ごちそうさまでした。びっくりするぐらいおいしかったよ」
ボクたちが感想を言うと店主さんがうれしそうに笑った。
そのままうなぎの余韻に浸っていてもよかったのだが、結局まだ一歩も始まっていないキャンパス巡りをしたいので、お会計を済ませて店から出ることにした。
「ということで、一人3500円だ」
「ジュースありがとうございました」
「コーラ、どうしよう」
「ああ、瓶は今度来るとき返してくれれば構わない。そうだな、酒が飲めるようになったら来てくれれば、次は酒をおごってやろう」
「わーい」
「クーちゃんお酒飲めるのいつからよ」
「次の誕生日からだから、4月18日だよ」
「結構すぐだった」
「ショウちゃんは?」
「ボクは4月28日だね」
「誕生日結構近いね」
ボクもクーちゃんも1浪なので次の誕生日で二十歳である。お酒は飲んだことないが、一度飲んでみたい、という好奇心はある。
「じゃあ、4月末ぐらいにまた来るね、おじさん」
「ははは、楽しみにしてるよ」
「ごちそうさまでした。また来ます」
挨拶をしながら、扉を開けて外に出る。
スマホで時間を確認すると、ちょうど12時だった。やはりうなぎはそれなりに時間がかかる。そんなことを考えていると……
「あれ?」
「どうしたのショウちゃん」
「今、12時だよね」
「そうだね」
「お昼時なのに今のお店、お客さんいなかったね」
「そういえばそうだね」
いくら手間がかかる捌き方をしているとはいえ、有名店ならお客さんは来るのではないだろうか。そんなことを思いながら振り返ると……
そこにはお店はなく、ただの空き地であった。
「……あれ? なんで?」
「……妖怪の仕業かなぁ」
「妖怪すごいなぁ」
狐につままれたような話だ。狐は隣にいるけれど。
周りを見ても住宅ばかりであり、今まで食事をしていたお店は存在していなかった。そういえば、ウナギの匂いもしなくなっている。
「おいしかったのに、これじゃあまたいけないじゃない」
「4月末って約束したから大丈夫でしょ。また二人で4月末に探そう」
クーちゃんは暢気にそんなことを言う。クーちゃんが大事に握りしめているコーラの半分残った瓶が、今までの出来事が夢ではなかったことを示していた。
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