ボクと狐ちゃんのキャンパス巡り6

店主さんは奥に置いてあったバケツからうなぎを取り出した。まな板に錐のようなもので頭を貫いて打ち付けると、背中側からバサバサと切り裂き始めた。


「やっぱり背開きなんですね」

「腹開きは切腹につながって縁起が悪い、なんていうからね。といっても昔っから背中から開いているから、理由はよくわからんね」

「そうなんですか」

「焼けるのに時間かかるし、適当に日本酒でも飲んで待っていてくれ。後ろの冷蔵庫に入っているから適当にとって構わないよ。初見さんだしサービスだ」

「すいません、ボクたち未成年なので、お酒飲めないんです」

「そうか、それならしょうがないな」

「えっ」


クーちゃんがボクのほうを驚いて振り返る。こいつ、酒を飲もうとしていたな。

塗々木さん情報ではクーちゃんは一浪だし19歳未成年であるはずだ。まさか誕生日が今日、なんてことはないだろう。


「そうかそうか。見た感じ大学生か? 瑞原に入ったばっかりかな?」

「そうです。昨日入学式だったんです」

「じゃあ入学祝だな。酒はダメだが、ジュース好きなもの一本取ってきな」

「ありがとうございます。ほらクーちゃんお言葉に甘えよ」

「そうだね」


ちょっとだけ不満そうなクーちゃんを連れて、入口近くにあったガラス戸の冷蔵庫を開けて見る。中には日本酒の一合瓶が何本かと、ほかにコーラやオレンジジュースの瓶が入っていた。


「おお、これはコーラ!!」

「瓶コーラってなんかおいしそうだよね」

「コーラ初めてなんだー」

「え?」

「お母さんが骨が溶けるからダメって飲ませてもらえなかったの」

「また古典的だね」

「でも大学に入って、大人になったからコーラデビューなのだ」


嬉しそうにコーラの瓶を取り出すクーちゃん。コーラすら飲んだことがないってどれだけ箱入り娘だったんだか。お嬢様はやっぱり格が違った。

ボクはオレンジジュースをとりだし、冷蔵庫の扉を閉める。栓抜きとガラスコップはは冷蔵庫の上に置いてあったので、二つともとって取ってから席に戻った。


カウンターに戻った時には、店主さんがすでに捌いたうなぎを焼いていた。焼き台の上を見ると、ウナギのほかに、よくわからない黒っぽい串が焼かれていた。


「その串、なんですか?」

「肝串だな。捌いたから一緒に焼いている。焼けたらやるからな」

「きもくし?」

「うなぎの内臓を串にさして焼いたものだ。癖はあるがうまいぞ」

「おいしそうですね」


この場で捌いたのだから、確かに内臓、肝も一緒に出るのは当たり前だった。その肝をこの場で焼いてくれるらしい。魚の内臓は結構好きな方なので、ちょっと楽しみだ。

オレンジジュースをコップに注ぐ。クーちゃんにお酌でもするかとそちらをみると、両手でコーラ瓶を持ち、何か覚悟を決めた真剣な表情をしていた。何をするつもりなんだろう、と思ってみていると、クーちゃんはそのまま瓶に口を付けて飲み始めた。眉をよせながら、必死にコーラを飲むその姿は真剣そのもので、なんでコーラを飲むのにこんな必死なんだろうと不思議になるぐらいだった。

大体20秒ぐらいだろうか、クーちゃんとコーラの戦いは、クーちゃんが瓶から口を離したことで終わった。コーラ瓶の中身はほとんど減っていない気がする。瓶をテーブルに置くと、クーちゃんは「げふうぅぅぅ」とゲップをした。お下品だった。


「クーちゃん、コーラ美味しい」

「刺激的な新感覚……」

「初めてなんでしょ? 苦手なら、ボクのオレンジジュースと代える?」

「私だって、コーラぐらい飲めるのですよ!!!」


涙目になりながらクーちゃんはまたコーラに立ち向かい始めた。炭酸は得意苦手があるし、苦手ならやめればいいのに、と思ったが、クーちゃんはコーラを手放さない。瓶に直接口を付けて、くぴくぴと飲んでは、涙目で「げふぅぅぅ」というゲップを繰り返す面白生物になったクーちゃん。お下品だったがちょっと面白かった。


「ほら、肝串だ。食べてみろ」


おもしろクーちゃん観察をしている間に串が焼けたようで平らな四角いお皿に2本の肝串が置かれた。見た感じ、焼き鳥二口分ぐらいの真っ黒なものが刺さった串である。試しに一口かじってみると、口に運ぶと甘辛い濃厚なたれの味と、内臓の苦みが広がる。結構おいしい。一口で全部食べるには味が強すぎるが、ちょっとずつちびちび食べるのにちょうどいい感じの味だった。


「げふうううううぅぅぅ」


クーちゃんは、いまだにコーラに苦戦していた。必死に涙目になりながらも、再度口を付ける。コーラ瓶の中身はまだ半分以上残っている。


「クーちゃん、肝串来たよ?」

「わ、私はコーラで忙しいのです。肝串はショウちゃんにあげるのです」

「いいの?」

「げふぅうぅぅぅ」


ゲップで返事しないでほしかった。

まあ、もらえるものはもらうのがボクの主義なので、お言葉に甘えてもらってしまおう。

ちびちびと肝串を食べていくと、徐々に味が変わっていく。下の方は、歯ごたえがより良い一方で味が薄い気がした。内蔵全部を使っているからか、味が場所によって違う。

クーちゃんの「げふうぅぅぅぅ」をBGMに店主さんが調理する風景を眺める。蒸し器から出したウナギはたれに漬けられて再度炭火で焼かれる。じりじりと香ばしい匂いを楽しみながら、ボクは肝串をちびちびと食べていた。



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