3.

奥の部屋は、予想通り蛮族の寝床になっていた。


無造作に部屋の隅に積み上げられた、棚や椅子。


大きいベッドの上や、絨毯の上に、蛮族が持ってきた枯れ葉や汚れた毛布が敷かれている。


あちこちに食べ散らかされた果物や鳥の骨(村から盗んだものだろう)が、腐り始め異臭を放っている。


「う…」


私は手拭いで、鼻や口を覆い部屋を調べ始める。


フローラやアントニオが部屋の入り口を警戒しているので、今度はLTLTも部屋を一緒に調べてくれた。


(手伝ってくれるんだ…意外)





賢神キルヒアの司祭アントニオ、魔道機術と銃を使いこなすLTLT、ナイトメアの魔法戦士フローラ。


そして、罠に関する知識や鍵開け、探索の訓練を積んだ剣士の私(名はクェス)の4人は、まだまだ駆け出しと言って良い冒険者だ。


私は、治安の良い街道を行く隊商の護衛や、熟練の冒険者と組まされた下級の蛮族討伐で食いつないでいた。特定のメンバーとパーティーは組んでいない。


今回も、いつも通りに冒険者ギルドの女主人カレンから仕事と仲間を紹介された。


ただ、今までと違うのは私以外の3人が今回が初の任務だったことだ。


アントニオについては、賢者としての修行を積んでいて、神聖魔法で傷は癒せるものの、戦う手段を持っていない。おそらく、戦闘訓練すらも受けていないのかも知れない。


初めて4人で戦ったときには、彼は蛮族の血や死体に耐えられず、胃の中のものを戻していた。


「ねえ、カレンさん。蛮族討伐なら、もう少し…、剣の腕に覚えがある人とか、攻撃魔法が使えるソーサラーとか、いなかったの?」


面子を見たときに、すぐカレンさんにこっそり抗議したのだが、彼女からは励ましとウィンクしか返ってこなかった。


「蛮族は村付近にある"枯れた"遺跡("枯れた"は探索済みという意味)に住み着いてるらしいわ。村長さんが遺跡について気になる話をしてたし、ついでに遺跡も探索してみなさいよ。クェス、最近、楽しくなさそうよ」

「…」




3人を紹介されたときの事を思い出していたら、探索の手が止まっていた。


目の前の壁は、蛮族どもに刃で壁紙を切り裂かれたり、剥がされたりしている。


美しい花柄の壁紙が気に入らなかったのか、面白半分で行ったのか、いずれにしよ無意味で野蛮な行為だ。


何故奴等はこんなことをするのだろう?


幼い頃に蛮族たちに、住んでいた村を焼かれた記憶までよみがえってきそうだ。


(ダメだ、集中しよう)


視線を壁から反らし、中庭へ通じる通路へ向かおうとした時。


視界の片隅に、剥がされた壁の1部に。見慣れた模様を見つけた。


模様ではなく文字だ。恐らく、魔道機文明語。

LTLTを呼ぶと、すぐに彼女も気がつき、壁に書かれた文字を読んでくれた。


”竜が飲むのは、紅い太陽が溶けた水”


溶ける?そして水?

意味がわからない。

「更にこう書いてあるな」


"この文字が誰かに読まれているのなら、私は死んでいるかもしれない。"

"集めた大切なコたち、出来れば引き取って。"


「これは…以前この遺跡を探索した冒険者達も、見つけていない情報かも知れませんね」


アントニオの言う通りだ。


流石に探索の時に壁紙は剥がさないか…。


この館は、魔道機文明時代の終わり、大破局の際に恐らく崩壊している。


この部屋と、開かずの間を残して、この一帯の建物は原形をとどめていない。それだけ頑強に作られているのだ。


そして、主はもしもの時のために、建設中の建物の中に、こんな気まぐれなメッセージを残したのだろうか。


「こんな文章を残してお願い事するなんて。少し、お茶目な性格ですね」


フローラが呑気な感想を漏らす。


「沢山の花に囲まれた、あの優しそうなドラゴンは、一体何を守っているのかしら…」

「なるほど」

今度はLTLTが、急にそう言って中庭の方へ歩き出した。


「何かわかったの?」


「おそらく…だがな」


蛮族が部屋や通路に罠を仕掛けていないか、確認しながら彼女は外に出る。

それに私達も続いた。


(つづく)

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