2.

ボルグの槍の一撃をバックラーでそらし、かわす。


(よし!!)


そして私は細剣(エペ)を、隙だらけのボルグの脇腹へ…!!


「グギ…ギ!!」


ボルグは後ずさりしながら、口から血を流し、仰向けに倒れた。


「お見事でしたね」


肩で息をしながら、フローラが微笑みかけて来る。


頷く。私は無傷だ。


フローラの優雅なふわふわの癖っ毛が、蛮族の返り血でべったり濡れている。

そして、彼女だけが怪我をしていた。


フローラの足首は、打撲で青黒く晴れている。ボルグの槍の足払いを避けきれなかったのだ。


(私を庇った時の、腕の切り傷も完治してないな…)


声をかけるまでもなく、慌ててアントニオがフローラの側に近寄る。


今日だけで4度も治癒魔法をかけているので、アントニオも顔色が良くない。


「フッド族の剣持ちが2体、大盾持ちが1体…これで全部倒せたのかな?」


アントニオが安堵した様子で一人言を言った。


目撃されていた蛮族は、7〜8体。


この遺跡に来る前に、すでに4体(遊翼魔グレムリンと、短剣持ちの弱いフッド族だった)倒している。


数は合う。


「では、依頼は果たした事になる。帰ろう」


そう言って、LTLTが長銃を肩にかけ、倒れている蛮族の遺体から、役に立ちそうな戦利品がないか調べ始めた。


(え、ちょっと待ってよ)


「これで安心して遺跡の奥も探索出来るでしょ?今帰るなんて、勿体無いよ」


「アントニオの消耗が激しいのを、心配している」


(フローラには、異貌させてまで魔法を使わせたくせに…)


淡々と喋るLTLTの言葉に、私が辛辣な言葉をかけそうになった時。


「ああ、LTLTさん!!私なら大丈夫です。こんなこともあろうかと、ほら。魔晶石も準備しておきました」


やけに明るい声。


アントニオはアメジストに似た小石を2つ、ベルトポーチから取り出す。


「今、クェスが倒したボルグが集団のリーダーでしょうけど、まだ目撃されていない

残党が奥にいるかも知れませんよ。"後顧の憂いを断つ"って言うでしょう?情報だと、恐らく部屋はあと1つ。後は確か中庭がありましたよね?それだけなら、さらっと様子見て、さらっと帰りましょう」


ピリついた空気が柔らかくなり、LTLTも素直にアントニオの意見に賛同した。


「確かにそうだ」


LTLTの表情は先ほどと変わらない。


「蛮族が残っていて、仲間を呼んだり、村へ報復する可能性もあるな。私が浅はかだった」


(良かった、LTLTに嫌みを言って返さなくて…)


フローラは鞘に納めた剣の柄を、ポンッと叩き、ニコニコしている。


「あはは、良かった!!ね、後もう少しだけ、力を合わせて頑張りましょう!!」


戦闘に一番消極的なアントニオが、一番『らしく』ないことを言う。


(ま、でもちょっと助かった…)


私も頷いて、LTLTと一緒に戦利品を漁るのを手伝う事にした。


(つづく)

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