ガーディアンは花が好き

ハリィ

1.

<はじめに>


本作は、「グループSNE」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ソード・ワールド2.0/2.5』の、二次創作です。

(C)GroupSNE

(C)KADOKAWA


1.

「ガーベラ、カサブランカ、ラナンキュラス、チューリップ、パンジー…あ、かすみ草もありますね」


花の名前を次々に口にする、フローラの綺麗な声が心地いい。


松明に照らされた鉄製の扉には、様々な花が彫り込まれていた。


そして、花の真ん中にはドラゴン。口元には親指くらいの穴。


(鍵穴もないし、ドアノブもない…)


開かずの扉らしい。3組の冒険者が挑んでこの部屋だけは開けられなかったそうだ。


「どどどうですか、クェス。何か分かりましたか?」


後ろから、不安そうでねっとりした、男性の声。


「おじさんは黙ってて。松明揺らさないで」


声の主、アントニオへ振り向かずに答える。


「おじ!?な!?38歳は、まだおじさんではないでしょう!?」


年齢、聞いてないし。


「あ、ここ…文字?かな?」


ドアの周囲は、葉をモチーフにした模様で縁取られている。


葉は重なったり、曲がったり。


「でもここだけ不自然でしょ」


あ、独り言の癖がでてしまった。


「"でも"、って何ですか」


振り向いてアントニオに冷たい視線を送ると、「ヒッ」と言わんばかりに顔をこわばらせた。

運動不足のせいで、たるみきったアゴと腹がブルブル震えている。

なんで冒険者になったんだ…。


あたしが、扉に触れない様にして、文字と思われる場所を指でサッとなぞると、聞こえたのはアントニオの声では無かった。


「"美しい夕日が見える日だけ、扉が開かれる"…と書いてあるな」


扉を見ている私達の後ろで、周囲を警戒していたLTLTの声。


「なるほど、魔道機文明語ですね」


役に立たなさそうなアントニオを無視して、LTLTに聞き返そうとした時だ。


「気づかれたのかもしれない、…来るぞ」


魔道機文明時代に創造された人造人間。暗視持ちのLTLTが、通路の奥の暗闇を見つめていた。

人形の様に整いすぎていて、無表情な顔。私よりは幼く見える少女。

手にはすでに、顔とは不釣り合いな長銃を構えている。


LTLTの視線の先に神経を集中させる。


金属の音、不規則なリズムの耳障りな話し声が聞こえる。


通路の奥の方には、確か部屋があったはずだ。扉の側まで蛮族達は来ているのかも。


話し声の音量から、こちらには気がついてはいない?


「さ、本来の任務に戻りましょうか」


フローラが「天気がいいので、今日は外で食事をしましょう」というくらい、穏やかな口調で剣(ブロードソード)と、盾(ラウンドシールド)を構える。


くるくるの金髪の巻き毛は背中まで伸びていて、大きい青い瞳、白い肌。

少年の様なベリーショートで、日に焼けた肌の私とはえらい違いだ。


「ここで迎え撃とう、おじさん、松明そのままお願いね」

「わわわわかりました」


アントニオが歯を鳴らしながら、フィールドプロテクションの祈りを紡ぐ。


(まだ早い…いや、いいか…)


「フローラ、私にはファナティシズムを頼む」


LTLTの声に、フローラの顔が曇った。

「また…あの姿になりますよ?」


「構わない、どのような姿であれ、貴方である事は変わらない」


(そう言う事じゃないでしょ)


LTLTの無感情な声に私は苛立ち、一言文句を言いそうになる。


ギギイイイイィー


奥の扉が、軋んだ音を響かせ、乱暴に開けられる。

蛮族達の話し声が止まった。私達の松明を見て、緊張しているのだ。


アントニオの祈りが終わり、私達の体は光の加護に包まれる。

(良いタイミング)

「…わかりまりた」


そして、フローラが小さく、苦しそうに答えた途端。

彼女のサークレットの辺りから、一本角が歪にねじれ上がった。

(つづく)

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